「徳五郎じいちゃんって、どんな人だった」
僕が父に聞くと 初めて聞いたわけでは無いが うるさがりもせず
「オレの中では国定忠治だった」 いつも同じ答え
「大きいばあちゃんが言っていた じいちゃんはどこからか刀を持ってきて
2本あった、押し入れにいつも入っていた、どう考えても顔立ちもヤクザものにしか見えない」
父は続ける
「オレが小学生の時、このひねくれた性格だったからいつもクラスのボスグループに虐められた
虐められても『まいった』と絶対言わないから余計に虐められた」
「あるとき階段から突き落とされて、足をくじいた、だがその日、先生に教務室に呼ばれた
クラスのボスは県会議員の息子だったから、いつもぺこぺこしている先生が奴の肩をもって
また説教かと思ったら、絵が入選したと褒められた」
「それから足を引きずりながら家まで舞い上がって帰った、大きいばあちゃんに得意になって
言ったら、たいそう喜んでおやつをくれた、縁側で食べていたら爺ちゃんがやってきた」
『酒を買ってこい』と言った、いつも酒買いはオレの仕事に決まってた、だがこの日は足が
痛いので『今日は足が痛いからいやだ』と言った瞬間、背中を思い切り蹴られて
縁側から落とされた」
「痛いのとびっくりしたのとで呆然として倒れている俺の顔に、爺ちゃんは20銭を叩きつけて
『今度口答えしたらただではすまさんぞ!』と鬼の形相で言った」
痛む足を引きづって酒屋に行くと、酒屋の親父は酒2合を渡した後、2銭を俺の手に
握らせて『またやられたのか・・・辛抱しなよ、これは駄賃だ』と言った」
僕は赤城山に向かっていた、自閉症の子供と二人で車に乗って遙々と
山頂なのかどうか知らないが、火山湖のほとりの食堂に入って子供は焼きそば、僕は
ラーメンを食べた、子供が残した人参を、僕は惜しんでみんな食べた
向こうに座って、先ほどからじっとこっちを見ていた50代くらいのおばさんが
「自閉症だね・・・」と声をかけてきた
「おとうさんといいねえ」と子供にも声をかけた
複雑な気持ち、相手の意がくめなくてどう答えて良いかわからない、善意なのは
わかったが
外に出て歩いた 湖の畔に国定忠治の胸像が建っていた