私が生まれたのは、母の実家
ボンネットバスから降りた停留所は
セメント工場の正面で
そこから吐き出される強烈な酢酸の臭い
思わず鼻が曲がる
水神さんの小さな祠の前に家がある
さらさらと幅2mほどの川が流れ
木橋を渡ると玄関だ
セメント工場に勤めている伯父さんは
いつも私の顔を見ても「うん?」ってな調子で
何も言わない
三交代の夜勤開けなのか昼中、高校野球を見ている
珍しいもの好きで
金持ちでもないのに電化製品は近所中で真っ先に買う
この頃は京都平安 大阪浪商 日大一 日大三
だとか松商学園 などが常連校だった
野球が終われば、ふらりとパチンコに出かける
歩いて1分だから毎日のように行くらしい
昔のパチンコは少しのお金で長く遊べた
夕方になり食事が出来ると
「おじさんを迎えに行ってきて」と伯母さん
パチンコ屋に伯父さんを迎えに行く
私は子供の頃から味噌汁が大好きで
伯母さんはそれを知っているから
これは「よっちゃん専用」と
小さな鍋にお代わり五杯分も作ってくれた
夕飯が終わって、そろそろ暑さを感じた頃に
「ドリアン食べよう」と伯母さん
子供たちは「ワッ」と歓声をあげ
大将の私、妹、弟、この家の一人息子で私と同年のいとこ
キャンディ屋目指して走り出す
「おじさんドリアン7本」
子供4人、伯父さん、伯母さん、ばあちゃん
私の母は忙しくて明日迎えに来る
キャンディ屋のおじさんは金属の丸いふたを
「ぽこん!」と開けると、中からドライアイスの煙みたいに
「ほわ~」と冷たい風が顔にかかった
ドリアンの甘くて冷たい香りが
一足でも速く家に帰りたい
あああ満足した後には、またお楽しみ
大きなスイカを、おばさんが「ぱこ~ん」と切ってくれる
三日月型の大きな奴に、顔を埋めてむしゃぶりつく
子供4人が狭い縁側に並んで
「ぺっぺっ」と黒い種を縁側の草むらに飛ばす
そこからスイカが成るんだと、半分信じていた
もう酢酸の臭いなんか少しも感じていない
楽しい子供の頃の思い出話