宮本輝の『流転の海』を読みだしたら案外面白い
前回読んだ同人の『森のなかの海』は神戸地震をベースに主人公の女性が不思議な奇縁に入り込んでいくよく意味がわからない小説だった
今度のこれは最初から50歳のとびっきり度胸よくお行儀のよくない荒くれ経営者の主人公が自己主張を始める
戦後の大阪の闇市でうごめく荒くれの世界で戦前の成功を取り戻すべく、人集めから始めていく男の生きざまと出会いも面白い
『どてらい奴』成り上がり商人の痛快な物語であった、あれも面白かった
度胸と頭脳と人材が一致すると怖いものなど何もなくなる、次々と困難を乗り越える物語は読んでいて心が躍る
やはりこういう物語の主人公は関東人ではなく関西人の方が良い
本当の江戸っ子のべらんめぇなら小気味良いが、そうでない首都圏のセリフは四角四面で面白くない
その点、関西弁の商人ドラマはきわどいセリフを言っても、どこかにほのぼのとした心を感じるのだ
関西弁は商人弁だと思う、もっとも『流転の海』の主人公は伊予の出身者で、その方面の言葉を使う
広島弁に似たどぎついセリフが出てくる、大阪の言葉とはかなり違う
今は戦後数年の時代背景だからむしろどぎつい言葉の方があっているかもしれない、まだ全9巻を読み始めたばかりだから何とも言えないが
かって経理士事務所が提供してくれる、成功した経営者の講座のCDを毎日のように聞いていた
その中で唯一印象深く今も残っているのは、トヨタ、日産などに大きく水をあけられている2流メーカーの地方ディラーの社長の話
滋賀県だかのディラーだと思ったが関西の社長だ、たしかな記憶は薄れてしまいあいまいだがご承知願いたい
社長だった父が亡くなったのか会社を引き継ぐ、引き継いでみてびっくりボロボロの赤字会社で愕然とする
早速、会社改革を始めるが古参の重役連が子ども扱いして耳を貸そうともしない、それでも続けると
「ほなら、わてらはやめさせてもらいます」と脅しをかけてくる、それに屈したりもするが、ますます経営悪化
ついに重役連は「わてらが辞めたら、この会社もおしまいでっせ、ほな社長さん安生に」次々と会社を見限って辞めていった
これは大変なことになった、ベテランの重役たちが皆辞めてしまえば会社は回らなくなると大慌てするが、後の祭り
ところが1か月、2ヶ月過ぎても売上は落ちない、落ちないどころか利益が出てきた、これはどうしたことか?
残った平社員に聞いてみると「それは、あたりまえでんがな、重役の仕事は豪勢な椅子に座って新聞読んでるだけでっせ
営業してあるいてるんわ、わしらや何も変わりませんがな」
なるほど売上が変わらず、高給取りの重役が辞めただけ人件費が大幅に減って、その分利益となったのだ
そしてトヨタなど大手のディラーを押さえて県内一のトップシェアを達成した
その後、桁違いに大きな神戸だか兵庫だかのディラーの再建をすべくメーカーに志願して乗り込み
自ら労働者として先頭に立って模範となり社風を正し、大いに実績を上げる
この話は「ええ話でんな」こういうのが私は大好きで、胸がすーっとする
人生、何が幸いするかわからん
苦あれば楽あり、人は元気で楽しく、真面目で真剣にやっていれば神様もご先祖様も助けてくれる
まあ、毎日そんな気持ちで生きてます