落石の十センチ横雨蛙 炎火
明と暗紙一重なり夏の蝶
夏至の日や帰宅を急ぐ由もなし 洋子
とりあえず蚊遣りを焚きて客を待つ
只管に壁よじ登る毛虫かな 豊春
枯れ松のトルソー並ぶ青芒
梅雨空のスカイツリーは注射針 薪
山葵アイスぴりりと甘き余生かな
文字摺やねじれて小虫登りおり 歩智
目黒川ここで泳いだ人に逢い
癌告知友起きあがる遠花火 正太
耳鳴りのそばで失せたる藪蚊かな
誰となく呼んでみたいな梅雨の月 章子
蚊柱のよろよろと来てふらり去る
愁いある後ろ姿や白日傘 遊石
蚊柱の向こうに揺らぐ石仏
野川にも「もじり」盛んに梅雨暮色 侠心
藪そばの小庭にそっと蚊遣り哉
縮みゆく義母の髪切る梅雨晴間 鼓夢
虎が雨緑の絵具滴らせ
うたかたのわだちの水輪雨の跡 空白
濡れそぼる参院選の掲示板
何処より梔子匂う夕べかな 稱子
旅にある一期一会や夏薊
戻らざる今日のいのちや夏椿 雲水
ご婦人が男のように藪蚊打つ