「あなたは僕の祖父じゃありません。」
少なくともこの世界ではそうです。光君がそう言うので、
ああそうかと、この世界も自分の世界ではないのだなと彼は残念に思いました。
そして、その上に時間も違っているのだと思うと、
光君の祖父は傍らの蛍さんを手で差し示して、成人したこの世界の住人であるらしい孫に聞いてみました。
「この子は私の世界の子かしら?」
「その子は僕のワイフです。僕のバニー。」
きつかった光君の目が、一瞬笑うと耳まで赤くなり、一寸照れて口元に拳など当てています。
『ああなる程』と光君の祖父は思います。
彼は大きくなって身なりも整った孫が、それでも照れてはにかんでいる様子に、
幼い頃の彼のイメージと重なる奥ゆかしさを見て思わず微笑んでしまいました。
『私の光はこの子にぞっこんだったっけ。』こちらの世界でもそうなのだな。
そう思うと、頬を染める光君に世界が違っても大変愛おしいものを感じるのでした。
祖父は目を細めて彼を見つめると、
「それで、時間の方はどうなっているんですか。この子と君だと随分違うようだけど。」
と聞いてみました。祖父のこの言葉に、再び世界の違う光君は態度を硬化させました。
「これだから余所者は油断できないんだ、君達はこの世界の物を何でもスパイしようというんだからな。」
と、眉を吊り上げました。目も怒りに燃えて、まるで大きな寺院の入り口に立ち上がる仁王像のようです。
「スパイだなんて、私の世界での君とこの子は丁度良い年の具合だったから、
この子に対して君が酷く成長し過ぎているのが気になっただけですよ。」
ややムッとして彼は言い返しました。
「私の孫は決してそんな目で私を見たりしないからね。」
「私だって、自分の孫とは言っても、世界の違う君となんて仲良くなんてしたくないよ。」
「スパイだなんて、何処の世界へ行っても居辛いったらありゃしない。」
彼はいい加減スパイ扱いされる事にうんざりして矢継ぎ早にそれだけ言うと、段々と癇がつのって腹が立ち、こめかみに青筋が立って来ました。