Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、129

2017-04-10 20:36:27 | 日記

 女性というのは魔物だね。男の人は呟きます。

こんなに小さくても男性にとっては魔なんだなぁ。女の子か、返って身内の子供の方が始末に負えないものなのかもしれないなぁ。

何だか嬉しそうにも聞こえる語調です。顔も目尻が下がって、頬もうっすらと赤く染まっています。

そんな男性を見ていると、蛍さんは本当にこの男の人って変な人と思います。

 「おじさん何だか変。」

そう言って、ホーちゃんもう座敷に帰ると彼に背を向けて駆け出そうとしたところへ、廊下の奥から彼女の父親が根負けして渋々姿を現しました。

アッと、蛍さんはまた男の人に向き直り、素知らぬ顔でにこやかに目の前の男の人に話しかけました。

「おじさん面白ーい。」

キャッキャとこれ見よがしに高笑いの声等立てて、父の気を引こうという構です。

男の人はあからさまな蛍さんの行動に、苦笑いどころではありません。

「あなたそのお年でもうそうなの。」

と、これはこれは、と大受けしてはははとお腹の底から笑い声を立てるのでした。

 おじさん、凄い、ホーちゃんに合わせてくれるんだ、よく私の気持ちが分かるわねと蛍さんは思いました。

「おじさん、子供の気持ちがよく分かるんだね。」

蛍さんは目を輝かせて、本当に感心してしまいました。凄ーいと拍手喝采!大絶賛していると、

かっかと頭に来た父に抱き上げられて、ぺんぺんとお尻を叩かれてしまいました。

 痛い!

「お父さん、行き成り何するの、人の前でお尻を叩くなんて。ホーちゃん何も悪い事してないのに。」

すかさず蛍さんは父にぶうぶう抗議をしました。

 「酷いじゃない、知らないおじさんの前で恥ずかしい。」

私は女の子なのよ、それなのに人前でお尻を叩くなんて、お父さん謝ってよ。そう言う蛍さんに、

「謝るのはお嬢ちゃんの方だよ。」

迎えに来たお父さんに心配をかけてと、おじさんは険しい顔で怒りました。

 えーっと、蛍さんは驚きました。おじさん私に調子を合わせてくれてたんじゃないの、行き成り怒って父の見方をするなんて、

彼女にするとおじさんの言動の理由が全く分からないのでした。

 

 

 


ダリアの花、128

2017-04-10 20:33:59 | 日記

そう女の子が女の人に背を向けて大きな声で返事をしているので、男の人は、お兄ちゃんて、清君という子?と聞いてみます。

蛍さんはうんと言って、お兄ちゃんたら、私が座敷にあったお釈迦様の教えの本を見たいと言っても渡してくれないのよ。

お兄ちゃんばっかり本を見てて、全然私に貸してくれないんだから。と、お兄ちゃんは嫌いと膨れっ面をしました。

 これはこれはと、男性が苦笑いをしていると、奥の女の人がこちらへ2、3歩き掛けました。

廊下の少し明るい場所に彼女が差し掛かると、女の人の顔が一瞬見えました。男性はハッとしました。

彼にはその女性の顔に見覚えがあったのです。彼女だと思った瞬間、女の人の後ろのそのまた奥の方から、

「もう放っておきなさい、その内機嫌が直って戻って来るよ。」

と、男の人の声がしました。女の人は後ろに顔を向けて、そうかしら、それではあんたさんがそう言うなら、と言って、

こちらへ向き直ると、蛍さんの傍の男性に申し訳ないですね、我が儘な子なものですからと会釈すると、

やれやれという感じで元の座敷へと戻って行ってしまいました。

 ふーんそうか。もしかすると、と男の人は思いました。

彼にすると、座敷の方から聞こえて来た男性の声にも覚えがあるのでした。

それで、多分事はそうなっているのだろうと考えてみて、自分の考えを確かめるために目の前の蛍さんに聞いてみました。

「今の女の人は君のお母さんかい?」

そうよと蛍さんは笑顔で答えます。とても美人でしょう?男の人はそうだねと答えて微笑みます。

彼はやっぱりねと思います。

 「それでは奥の方、多分座敷の方から聞こえた男の人の声は君のお父さんの声じゃないかい?」

「そうよ、蛍のお父さんよ。おじさんお父さんの知り合いの人?」

と、蛍さんは答えます。男の人はいや、そういう訳ではないが、君のお父さんの事は少し知っていると思うよと答えました。

 『やはりね、事はそういう具合になっているのだ。』と、男の人は自分の考えの確認の為に、

目の前の蛍さんの顔を確り確認して見てみようとしました。

「君ね、一寸本堂の入り口の明るい所へ来てくれないかな。」

と彼女を誘いました。この誘いには、幼い蛍さんも流石に用心して言う事を聞こうとしません。

今も昔も、子供が知らない人に用心するのは世に誘拐事件が絶えないからですね。

 「知らない人に付いて行ってはいけないのよ。」

蛍さんは、一寸きつめの声で男の人の誘いを断りました。

彼女の姿勢はこれ以上何か言われたらもう座敷に戻ろうという構えです。

 それで、男の人は暗い中でも構わずしげしげと彼女の顔を眺めてみます。

彼があまりに真剣に彼女の顔をジロジロ見詰めるので、彼女は妙な顔をして仕舞いました。そこで彼は彼女の機嫌直しに、

「いや、お嬢ちゃん、お母さん似の美人だね。」

と朗らかに言うと、思わず蛍さんはきゃっと笑い声を上げました。

 「本当?そんなこと言われたの初めて。ホーちゃんお母さんに似てたら嬉しいなぁ、お母さんとても美人だもの。

でも私お父さん似だから、そんなに美人じゃないのよ。」

照れ笑いの様に満面笑みで赤くなる彼女は、その両頬に可愛いえくぼをくっきりと浮かべました。

 やはりと彼は思いました。瓜二つという位にそっくりだが、この子は私の世界の蛍さんとは別の子だ。そう彼は確信しました。

すると、この子は彼から聞いた、赤ん坊の頃に亡くなったという彼のお子さんの1人なのだろうか?。

彼の亡くなったお子さんが生きている世界というものがあるのだろうか。

と、何だかあちらの世、こちらの世と、様々な世界に触れた彼は非常に感慨深い気がするのでした。

 そんな言い知れぬ感動に浸る彼には無頓着に、目の前の蛍さんは言いました。

「私のお父さん優しいんだよ、今にきっと迎えに来てくれるから、そうしたら肩車してもらって帰るの。」

そんな事を内緒話の様に言って、キャッキャと嬉しそうに笑うのでした。

 他愛ない、女の子なんて他愛ない物ねと、この世界の自分の孫の蛍さんの事を思い、

彼もまた孫にそんな思惑で何時しか御されていたのだなぁと自身の事に思い当たるのでした。