Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、158

2017-04-30 17:21:50 | 日記

 「もうそろそろお開きにして帰りませんか、続きはまた後日という事にして。」

蛍さんの父のこの申し出に、『そうだなそれがいいだろう。先の事が大体わかっているのだから、焦る事は無いな。』

と光君の祖父も思います。それで蛍さんの父の意見にそうですねと同意しました。

付き添いの2人はそれぞれに電話番号の交換をする事にしました。お互いに聞き合いながら手帳にメモを終えました。

 「光、祖母さん達に言って、帰る準備をしてもらいなさい。」

祖父は光君に言いつけると、自分は蛍さんに少しお話があるからと孫だけ先に行かせ、

彼女の父に少しお子さんと話をしたいのですが良ろしいでしょうかと、お伺いを立てるのでした。

 彼女の父は、自分も帰り支度をするよう家族に言って来ますから、その間に子供と話をしておられるとよいでしょう。

そう言って光君の祖父の申し出を快く承諾すると、直ぐに座敷へと去って行きました。

本堂には光君の祖父と蛍さんの2人だけになりました。

 さて、何から話をしたものかと祖父が考えていると、ポケットの写真に思い当たりました。彼はにこにこともう一度封筒を出してみます。

今度は最初に中から薄い紙を取り出しました。そしてそれを開いて目を通してみます。

そこには細かく区切られた四角形の図、細かな活字などが幾つかグラフのように並んでいて、どうやら何かの資料のようです。

彼は胸ポケットからルーペを取り出して紙に印刷された図を眺めてみました。

 『こんな事が…』彼等の世界では普通の事なのかもしれないが、未来の印刷技術だろうかと思いながら、彼はルーペで非常に細かい図面の隅から隅までを眺めてみます。

図の幾つかは婚姻届け、戸籍謄本などの役所からの証明書のようでした。国籍や住所などの移動関係の書類もあり、

祖父が一瞥したところでは、孫及び蛍さんの人生の所在を過去から現在に至るまで把握できる資料となっているようです。

 『戸籍謄本だけでよいのに。』と祖父は思い、何故婚姻届けまで並べてあるのかとよくよくルーペで記入された名前をみて、

彼はハッとしました。その後は自分が気付いた事について、関連書類をあちらこちらと追跡調査してみます。

そうしてその知りたかった事態の全容が明らかになった瞬間、彼は紙の最後に手紙らしい小さな文字の綴られた図を発見しました。

 「…これでよろしかったですか。」

手紙の最後にはそう書かれていました。特に署名はありません。『誰が書いた文章なのだろうか?』光かしら、

初めはそう思ってみた彼でしたが、どうもこの結び書きは嫁の蛍さんのような気がします。そう思うと彼はこの問いかけに、

「よくないねぇ。」

と呟くのでした。目の前の蛍さんを見つめながら、君には良くてもあの子には…、そう言いながら暫く沈黙して、

彼はやがて微笑すると、静かに紙を元の通りに折り畳み、また元の封筒に収め、自分のポケットに仕舞い込みました。

 


ダリアの花、157

2017-04-30 09:57:37 | 日記

 そこには光君夫婦、光君と祖父、光君一家らしい写真が入っていました。

光君は手にメダルを持っています。非常に誇らしく堂々として嬉しそうです。蛍さんは明るくにこやかに微笑んでいます。

光君の祖父である自分は、相当身が小さくなっています。赤い目に涙を溜めて笑って写っていました。

それはあちらの光君が言っていたように、大きな賞を授賞した時の記念写真でした。

  祖父は何だかとても感動して、泉の様に喜びがふつふつと湧いてくると、今迄の緊張が一気に解けて、

明るく微笑みながら写真を見つめました。

そして、一頻写真を眺めると大事そうにその写真を封筒に収めました。

至福の彼がその儘人生最大の幸福感に浸っていようとすると、

「やはり付文でしたか、中の紙には何とありますか?楽しみですなぁ。」

傍らの蛍さんの父が余計な事を言ってきます。

光君の祖父は一遍で高揚した気分が削がれました。それでもにこやかに、そうですなぁと、光君の顔を微笑んで眺めながら、

「何でしょうなぁこの紙は。」

と、直ぐには開いて見ようとはしませんでした。そしてそのままポケットに封筒をしまい込んでしまいました。

 「あなたの物ではなかったんじゃないですか?」

そう蛍さんの父が聞いてくるので、彼はいえ、これは私の物でしたと答えて、にこやかに沈黙してしまいます。

「覚えが無いと仰っておいでだったようですが。」

「いや、私の思い違いでした、確かにこれは私の大切なものでした。人生のね。」

そう光君の祖父は言って、私も少々呆けましたかなと、はははははと笑いました。嬉しくて仕様が無くて涙が出てしまいます。

 『光がね、我が家からこんな名誉な者が出て来るとは。私にとっても身に余る光栄というものだ。』

するすると涙が頬を伝って落ちるのを、彼は止める事が出来ませんでした。

やはりハンカチは必要になって仕舞いました。額の汗を拭い、目を拭い、頬も拭って、

「いやいや、今日は本当に蒸しますなぁ。」

と、震え声で照れ笑いしてしまいます。

 「お盆ですからね。」

蛍さんの父が言いました。そうして何やら取り込み事が起こったらしいと、光君の祖父の涙に彼は感じるのでした。

 


ダリアの花、156

2017-04-30 09:17:36 | 日記

 『漸く元の通りに、我が家の菩提寺の本堂に戻って来た。』

光君の祖父は目の前の孫達の様子に、ほっと安堵の溜息を吐きながら思いました。それでもまだ半信半疑です。

『本当にあの別の世界の孫が言った通りに、私の元の世界、時間なんだろうか?』そう思いながら探るように本堂の内部、

孫達の様子、横にいる蛍さんの父の様子を窺ってみます。光君の祖父は散々スパイ扱いされたので、目つきも何だか険しくなってしまいました。

 疑って掛かると、祖父には3人の様子が怪しいと言えば怪しくも見えます。

『自分が疑って掛かっているから疑わしく思えるのだろうか、いやここも本当は違う世界かもしれないなぁ。』

あれこれ思うと気を緩められず、祖父は緊張していつの間にかじっとりと汗を掻きました。

その汗が額を滴り落ちて目に入ったので、漸く彼はそれと気付き、ポケットからハンカチを取り出して拭おうとしました。

 その時、ぽとり!床に何かが落ちました。それは白い封筒のようでした。

この前後で、祖父の様子が何だかおかしいと気が付いて、彼の事を気にかけていたのは光君だけではありませんでした。

蛍さんの父も、横の人物が酷く緊張して蒼ざめ、身を固くして冷や汗のような物を搔いているので、急に具合でも悪くなったのだろうかと案じていました。

光君がじっちゃんと指で下を差した時、同時に蛍さんの父も、床に何か落とされましたよと彼に声を掛けたのでした。

 床に落ちた白い封筒に祖父は気付きました。

「いや、どうも。」

蛍さんの父にそう言いながら、彼は光君に微笑むと、

「本当にこれが私のポケットから落ちましたか?」

そう思議そうに蛍さんの父に問いかけてみます。孫の光君にも、そうかい、私のポケットから落ちたかい?と、尋ねてみます。

 「そう恍けられるところを見ると、何か良い物でも入っていると思われますなぁ。」

と蛍さんの父は、封筒の中に袖の下でも入れてあるのだろうかと言わんばかりの物言いです。

何方へのご進物ですか?と、蛍さんの父に問いかけられて。

いえいえ、ポケットに入れた覚えが無かったのでと、光君の祖父が言うと蛍さんの父は、

「それでは、それは、何方かからの付文の類でしたか。」

等、ふざけてにやにや笑って見せるのですが、光君の祖父の方は可なり緊張していた矢先でしたから、ややムッとして、

「いえ、本当にそう言った類の物ではないと思うのですが、私にはそんな人もおりませんしね、私は妻オンリーでしてね。」

と言って封筒を拾い上げると、彼は神妙な態度でそーっとその中を覗いてみます。

 『写真だ。』中には3枚の写真と1枚の薄い紙が入っています。

「写真ですよ。」

そう言って彼は3枚の写真を取り出して眺めてみます。