「光、お前は何時からそんな意地の悪い奴になったんだい。」
祖父は少し腹立たしく思いながら光君に抗議しました。
まあしかし、それでも、祖父は平和な世界が続いていてよかっと心底思うのでした。
祖父と孫夫婦が3人で話し込んでいる場所に、女の人がまた1人現れました。
「奥様、お食事が冷めてしまいます。早く旦那様もお帰りください。」
そうお伝えしてくれと大旦那様が仰っておられます。その女性の言葉に祖父はえっ!と再び驚きます。
「大旦那様?」
誰の事かしら?、光の父とも思えないけれどと声に出すと、蛍さんがお祖父様の事ですよと教えます。
お祖父さま長生きで、もうとうに百歳を超えられました。
にこやかにそう言うと、
「私達もお祖父さまの長寿に肖りたいわと、2人で何時も言っているんですよ。ね、あなた。」
うんうんと光君も同意します。そしてくすくすと彼の傍らで蛍さんは笑います。
とても上品な奥様然とした彼女の態度と雰囲気です。
思わず祖父が嬉しそうに満足げな微笑みを浮かべて蛍さんを見やると、光君はえへんと咳払いをして、
「これは僕の世界の我が家の嫁ですから。」
「あなたの世界もこうなるかもしれませんが、僕にはハッキリとした事は言えません。
起こり得る未来だと思われて、あなたももう帰られては如何ですか。」
そう光君は勧めて、お寺の本堂を指さすと、
「丁度今本堂に行かれれば、あなたの世界の僕達に出会え、そのまま元の世界に戻る事が出来るでしょう。」
そうして置きましたからと光君は言うのでした。
そうか、そんな事がと祖父は慌てて本堂へ走り出そうとして、
「私の事を騙してばかりいて、お前は本当に人が悪くなったな。」
そう言うと、光君はハハハと笑い、これもワイフのおかげですと、如何にも照れるように頬を染めると、
にやにやとにやけて恥ずかしそうに祖父に手を振るのでした。
「僕の世界の僕達夫婦と祖父は円満で楽しくやっています。あなたの世界でもそうなる事を切に願っていますよ。」
その光君の言葉を背に、後ろ手に手を振りながら、光君の祖父は一目散に寺の本堂に駆け出しました。
そして本堂に着くや否や、その扉を惜し開いて中へ転がるように飛び込んだのでした。