Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、155

2017-04-29 20:36:46 | 日記

 「光、お前は何時からそんな意地の悪い奴になったんだい。」

祖父は少し腹立たしく思いながら光君に抗議しました。

まあしかし、それでも、祖父は平和な世界が続いていてよかっと心底思うのでした。

 祖父と孫夫婦が3人で話し込んでいる場所に、女の人がまた1人現れました。

「奥様、お食事が冷めてしまいます。早く旦那様もお帰りください。」

そうお伝えしてくれと大旦那様が仰っておられます。その女性の言葉に祖父はえっ!と再び驚きます。

「大旦那様?」

誰の事かしら?、光の父とも思えないけれどと声に出すと、蛍さんがお祖父様の事ですよと教えます。

お祖父さま長生きで、もうとうに百歳を超えられました。

にこやかにそう言うと、

「私達もお祖父さまの長寿に肖りたいわと、2人で何時も言っているんですよ。ね、あなた。」

うんうんと光君も同意します。そしてくすくすと彼の傍らで蛍さんは笑います。

とても上品な奥様然とした彼女の態度と雰囲気です。

 思わず祖父が嬉しそうに満足げな微笑みを浮かべて蛍さんを見やると、光君はえへんと咳払いをして、

「これは僕の世界の我が家の嫁ですから。」

「あなたの世界もこうなるかもしれませんが、僕にはハッキリとした事は言えません。

起こり得る未来だと思われて、あなたももう帰られては如何ですか。」

そう光君は勧めて、お寺の本堂を指さすと、

「丁度今本堂に行かれれば、あなたの世界の僕達に出会え、そのまま元の世界に戻る事が出来るでしょう。」

そうして置きましたからと光君は言うのでした。

 そうか、そんな事がと祖父は慌てて本堂へ走り出そうとして、

「私の事を騙してばかりいて、お前は本当に人が悪くなったな。」

そう言うと、光君はハハハと笑い、これもワイフのおかげですと、如何にも照れるように頬を染めると、

にやにやとにやけて恥ずかしそうに祖父に手を振るのでした。

 「僕の世界の僕達夫婦と祖父は円満で楽しくやっています。あなたの世界でもそうなる事を切に願っていますよ。」

その光君の言葉を背に、後ろ手に手を振りながら、光君の祖父は一目散に寺の本堂に駆け出しました。

そして本堂に着くや否や、その扉を惜し開いて中へ転がるように飛び込んだのでした。

 


ダリアの花、154

2017-04-29 14:33:00 | 日記

 「それは気になる事だろう。」

光君の自尊心の強い気性を知っている祖父は、彼に慰めの言葉を掛けるのでした。

そして、幼い蛍さんに一瞥をくれると、内心やはりこの2人は合わないんだなと思うのでした。

 その時です、あなたもう帰って来てくださいと女性の声がして、光君と祖父の傍に女の人が1人現れました。

「もうそのくらいにして元の世界に戻って来てください。」

食事の都合もありますからと光君に言うと、彼の傍にいる祖父を見て彼女は軽く会釈をするのでした。

 祖父はその女性を蛍さんだと思い、しげしげと顔を眺め幼い面影をその顔に探してみるのでした。

「蛍さんでしょう。」

幼い頃とは全然似ていないと思いながら、その女性に祖父は声をかけてみました。

 「はい、お祖父様。」

へーと祖父は思います。『様なんだ。光の事はあなただし、如何やら呼び名は決まらなかったとみえる。』

彼はフフフと笑い、あのお互いの呼び名で揉めていた2人の幼い場面を思い出しました。まるで昨日のようです。

 祖父が蛍さんに元気そうですねと言うと、はい、お陰様で、ありがとうございますと、

蛍さんは至って礼儀正しくはきはきと答えてくれます。顔もにこやかで自分に対して優しい眼差しを向けてくれます。

祖父が受けた印象では、蛍さんは良いお嫁さんのようです。

笑顔や話し方が澄さんと似ているようでいて、また別の彼女独特の雰囲気が蛍さんにはありました。

 『育った時代背景の違いなのだろうな。』そんな事を彼は思いました。この子達は大きな戦争というものを知らずに来たのだろう、平々凡々としている。

 それはそれでよかったと祖父は思うのでした。そこで光君に聞いてみました。

「なぁ光、君達の時代には大きな世界戦争のような物は無くて来たんだろうね。」

それに対して光君は真顔になると、

「あったよじっちゃん、それはもう大きな奴がね、ドッカンと、ピカドンどころじゃなかったさ。それでじっちゃんもやられたんだよ。」

エー!と、祖父は驚き、顔をしかめると同時に酷く暗い気分に襲われるのでした。

 「光さん!」

叱るように蛍さんが夫を窘めると、光さんはニヤリと笑い、ぺろりと舌を出しました。

「嘘だよじっちゃん、戦争なんてなかったさ。平和な物だったよ、僕達の時代はね。世界というか。」

なんだ、と、祖父はほっとして胸を撫で下ろしました。