Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、122

2017-04-06 14:56:40 | 日記

 「あの人がいなくなると困ってねぇ。」

物事が立ち回らなくなってしまう。偶然今いるあの人も、相当な出来物だったので今まで支障が出無かったんだよ。

住職夫婦はこれからの事が不安になり深々と溜息を吐きました。

 今の人でも元の人でも、私達にすれば何方でもいいから、あの人が居なくなりさえしなければそれでいいんだけどね、

若し何方も居ない世の中になってしまったら、家やこの在所は右も左も、にっちもさっちも身動きが取れなくなってしまうだろう。

それが怖いよね、うん、そうそうと、住職夫婦はお互いに相槌を打つのでした。

 そういう肝心要の人がこんな身の上に置かれるなんて、神様仏様、世の中はどうなっているのかしら、

若奥様も本当に不思議な事だと仰天してしまうのでした。

 そこへ、ごめんくださいと当の話のご本人がやって来ました。

彼はさっき本堂で困り果てていた蛍さんを見ていましたから、ここへ呼ばれた理由が大体分かっていました。

溜息を吐きながら、判決を受ける前の死刑囚のような気分でいました。

 若奥様が玄関に行くと、そこには何時になく風采の上がらないような顔をした光君の祖父が立っていました。

「まぁまぁ、ようこそお越しいただきまして、ささどうぞお上がりやす。」

にこやかに彼のその顔色を窺がいながら、若奥様はどうやらこの人は此処へ呼ばれた理由が分かっているようだと気付きました。

 そう言えば、朝方墓所の方で草むしりがしてあったわと、この人がした事なのだ、

それでは早朝にこの人は寺へ来ておられて、あの子に会ったんだわ。この様子ではあの子に見覚えがあるのね、と判じます。

それでも、若奥様はこの男性に特に何か言う事もせず、素知らぬ顔で奥の座敷へと案内しました。

 来られましたよと座敷に入ると、住職さんには『もうあの子には会って、やはり知っておられるようですよ』とこっそり耳打ちします。

 「やあやあ、ようこそお越しいただきまして。」

住職さんも内心の驚きを隠して、何食わぬ顔で彼の御足労を労います。そしてまあお茶でもと愛想よく茶など勧めて、

「何といってよい物か。」

と、実はと、蛍さんがここに現れた経緯を話し始めました。

「それで、そのお子さんとあなたが同じ世界の人間ではないかと思いましてね、

あなたにそのお子さんに会っていただきたいと思ったのです。」

住職さんがそう言うと、それまでうな垂れて彼の話を聞いていた男性は、

ああやっぱりと予想が当たった事にホーっと溜息を吐くと、さも観念したように、

「知っている子なんです、あの子は。」

と、一言いうのでした。おおお、と、寺の座敷の一同は皆一様に驚愕します。


ダリアの花、121

2017-04-06 14:02:03 | 日記

 さて、座敷では大人4人が集まって相談です。これから如何したものかと考えてみます。

「先ず、僕があの子と色々話をして情報を聞き出して来ましょう。」

そう言って蛍さんの父親役が立ち上がり掛けました。早速本堂に行こうとする彼に、

あ、ちょっと待ってくださいと若奥様がメモ帳と鉛筆を渡します。

名前や場所、電話番号等、後から調べられそうな事はこれにメモするとよろしいですよと渡します。

男性も、これはこれはと用意がよろしいですなぁと、流石はお寺の若奥様だと愛想よく笑うと本堂へ立って行きました。

 残った住職さんとお寺の奥様方2人は、呼び出してある檀家の男性について話します。

そんな話があったんですか、と大奥様。ああ、前に彼がやって来てな、ほらお前が集いの温泉旅行に行った日だよ。

嫁と2人で話を聞いてね、妙な話だと思ったが、身元も本人も確りしたあの人が言うものだから気になっていたんだ。

舅の話にええと若奥様も相槌を打ちます。私も確かにそう聞きましたと。

 「神隠しの反対かなとおもてました。」

と若奥様。たまたまこちらの世界に同じ人がおりましたさかい、辻褄がおうて人数が揃いましたやろ、

向こうさんもこの儘でもいいゆうてはりました。それでその儘になっとったんどす。そう若奥様が言うと、住職さんは、

「いや、私は何とかしようと思っていたんだ。」

と俄然と反対意見を言われます。ただ、どう仕様も出来無くてその儘になっていたんだよ。と、沈んだ表情です。

そんな舅の顔を見て、そうだったんどすかと若奥様。

 それなら、あの子も現れた事どすし、今回何とかならないかここら辺の有識者で考えてみてはどうだすか。

そう言う若奥様の意見には皆も賛成です。寺の中はこの機会に何とかしようという事で話が纏まりました。

 それで、有識者には何方がおられるんどすかと聞く若奥様。

まずこの辺りで1番の有識者はと住職さんは言われます。

「今から寺に来るその話題の主だよ。」

そうそうと大奥様も相槌を打ちます。えーと驚く若奥様。これは一体如何なるのでしょうか。

問題を解決できそうな人が当の問題になっているその人だなんて。驚く彼女に大奥様が言います。

「あの人程の出来物は近所在郷には居ないんだよ。」

そのいの一番の知識人が問題を抱えている当の本人だなんて、若奥様は思いも寄らない話の展開に気が動転するのでした。


ダリアの花、120

2017-04-06 12:56:06 | 日記

 いやぁ僕はスパイみたいだなぁ、向こうの世界はこちらの世界よりもっと科学が進んだ世界かもしれませんよ。

と、彼は愉快そうに笑って興味津々です。

 何だか楽しそうですねと大奥様に言われて、彼は、いやぁ実は僕はこういう話が大好きでねぇと、

最近のテレビのタイムトンネルはご存知ですか、あれは時間の違う時代に行く話ですが、これがまぁとても面白くて、

ははは、いやあ、こういう話は誰しもなかなか興味の出る話でと、本当に愉快そうに目を輝かせるのでした。

「それ知ってますわ、SFとか言うのでっしゃろ、家のもよう言ってます。」

若奥様も目を輝かせて彼の話に乗り、にこやかに2人は話が弾みます。

 大奥様の方は若い2人の話にちんぷんかんぷん、

どれ、私はお父さんに連絡を取って来ますよと蛍さんのいる方へと戻って来ました。

電話しようと奥へ向かう途中で蛍さんの待っている場所を通り、

「お嬢ちゃん、もう少し待っててね、そうすれば何もかもうまくいくかもしれないからね。」

と声をかけて、さっきは抓って悪かったね、私はああいうのは嫌いな物だから。と微笑んで彼女の頭を撫でると、

ほらっと懐から飴玉を出して彼女の目の前で見せ、あーんと蛍さんに口を開けさせると、

ほいっとそれを蛍さんの口の中に頬張らせるのでした。

 蛍さんは大奥様が近付いてくるので仏頂面でいましたが、彼女に謝られ、飴を貰うとにこやかに笑顔になりました。

やっぱりおばさん達は親切だなと、さっきは機嫌が悪かったからだったんだと思い、

「ありがとうおばちゃん。」

と言って嬉しそうに飴玉を嘗め転がすのでした。

 飴を貰えるなんて、今日は良い日かもしれない。父が言っていたように気持ちの良い日、

本とに今日はそうだと、滅多に飴などもらえない彼女は思わぬ幸せに酔うのでした。

その様子に大奥様はほっとすると、もう少しここで待っていてねと、自分は電話のある奥座敷へと向かうのでした。

 『今日の檀家周りは今時分だとあちらさんね。』彼女はそんな事を考えていました。あちらの電話番号は…。