それでも彼は妹の澄さんに、
「お前ちゃんと向こうのご両親のお世話をしなければ、それが嫁の本来の務めだろう。」と、
夫の光さんと仲良く、その御両親にも可愛がられるように努力しなければいけないよ。と諭すのでした。
これでは、これ以上嫁の事を悪く言えばこちらの部が悪いと、光さんの父は黙り込み、
もう息子夫婦には家に帰るようにと言うと、家に帰って母さんをここへ寄こしてくれないかと頼みます。
「私は今食慾が無いから、お昼は後でいいと言っていたと伝えてくれ。」
そう言って、本堂で待っているからと息子夫婦を家に帰すのでした。
息子達が家に帰ってしまうと、その場に残った嫁の兄は妹の舅に向かって、
「こんな言を言っては失礼だとは思うのですが。」と、
「私にすれば可愛いい妹です。末っ子なので確かに我が儘な面がありますが、如何か末永く可愛がってやってください。」
宜しくお願い致しますと、やや強張った顔で少し語気強くなりましたが、丁寧にお願いするのでした。
舅も不承不承ですが、ああと、確かにあの子はかなり我が儘で通っていますからなと、
渋い顔をしながらも、分かりましたと承諾するしかありません。
兄は先方にこう渋られながら承諾されると、やはりなと妹に対しても思い当たる事はあるのですが、
何しろ自分には実の妹の事、あまり舅夫婦と合わないようなら若夫婦の別居も致し方ないのかもしれないと、
内心それなりの覚悟はしておくのでした。
さて、光君の祖父は本堂に1人となりました。一体如何なっているのかと考えてみるのですが、埒があきません。
やがてやって来た妻に自分の身の上を赤裸々に打ち明けてみますが、妻にしても半信半疑、夫のいう事を鵜呑みにもできません。
まぁ、兎に角家に帰ってはと、息子も興奮状態で、自分はなだめて来たが如何している事やらと、家の事が気掛かりな様子です。
そして、
「あなたにすると息子の光が生き残っていて嬉しいでしょうが、娘が生きていて、娘の生んだ男の子が孫として居るなんて、」
と、私にはそちらの世界の方がうらやましい気がします。と言うのでした。
妻には妻の、夫には夫の、好ましい世界というのがあるのかもしれません。
「息子が生きていたって、こんな事になっているのなら、案外嬉しい世界でもないのかもしれないよ。」
そう夫は言って、妻に勧められるままに、兎に角この世界の家へ行ってみることにしました。