やはりそうか、まあ、そんな事が、やはりねぇと、三人は感嘆し、皆一心に男性を見つめると彼の次の言葉を待ちました。
「あの子は私の世界では、家の嫁の兄の子供になりまして、名前は蛍と言いましてね、
ご本人はホーちゃんとかほっちゃんとか呼んでくれと言うのでしょう?」
へー、そうなの、そうなんでっか。三者三様に言葉を発して、お知り合いなんですね、よくご存じなお子さんなんですねと、
ああよかったと、座敷の中は緊張が緩み、ほんわりと安堵したような雰囲気になりました。
これで取り合えず迷子の引き取り手が決まったなという感じです。
何しろ目の前にいる男性のお宅が問題の女の子の叔母の嫁ぎ先であり、こちらの世界で、自分達が知る限りでは、
その舅が問題の女の子の事情がよく分かる唯一の人物なのです。違う世界から来た彼女にとって彼以上の理解者はありません。
それではこれからと、皆が相談を始めようとしている所へ、先程蛍さんに話を聞き出しに行った男性が血相を変えて飛び込んで来ました。
皆が思わずそちらを見ると、彼の目は赤くなり、溢れそうな涙を必死に堪えているのでした。
座敷の入り口で彼は立ち止まり、無言で立ち竦み、緊張からかフルフルと震えていました。
住職さんが如何しました、何かありましたか?と尋ねます。
いや、と言ったっきり、とうとう彼は堪え切れなくなり遂に涙を落としてしまいました。
声にも、うっと出て仕舞い、震える声でやっと申し訳ないと言うと、その場で堰を切ったようにむせび泣きし始めました。
そして、私にはこれ以上あの子と話す事が耐えられません。と、頻りに涙を落とすのでした
その男性の興奮した様子に、皆は呆気にとられてしまいました。
それで男性はそこに居た皆の注目を一身に集めることになりました。
男性にすれば何だか恥ずかしいような雰囲気になってしまいましたが、我知らず皆の顔を眺めて見ると、
座敷の中に並ぶ顔の中に妹の舅の顔を見つけ、思わずはっとしました。
まじまじとその顔を見つめ、暫く言葉も出なかったのですが、舅が神妙な顔で頷き彼に近付くと、
「あんたさん知ってたんだね、それなのに、それなのに、…。」
と視点が定まらない中その言葉を繰り返した後、彼は失望したように首をうな垂れて、黙りこくってしまいました。
「悪かったね、私にも事情があってね、今迄はあなたに調子を合わせるしかなかったんだよ。」
と、妹の舅は神妙に申し訳なさそうに彼に謝るのでした。
「そうだと言ったって…。」
彼がか細い声で言うので、内心酷く気落ちしているのは誰の目にも明らかでした。
何しろ、今迄この世界の彼の相談役というか話し相手になっていた妹の舅は、向こうの世界の彼が、
こちらの世界の彼より遥かに数倍も幸福であることを知っていたのです。
それで目の前の彼の身の上については痛く同情していました。