「迷子ですか?」「そうだそうだよ。」
そんな男女の声がして、お寺の本堂に人が入ってきました。
「こんな朝の早い時間から迷子やなんて、この辺の子やないんどすか?」
そう言いながら、このお寺の若奥様が舅の住職さんとやって来ました。
「ああそうなんだ、困ったな。見た事無い子なんだよ、顔に覚えがないし、何処の子なんだろう。」
住職さんもそう言って、若奥様もそうどすねぇと、お母さんに聞いてみられたらどうですやろと、 2人困り顔で相談しています。
それから兎に角と、住職さんはこれから用があるからと忙しくぱたぱたと本堂から出て行かれました。
入れ替わりに大奥様が本堂にやって来ました。
「どうしたの 、迷子だって?」
大奥様は気乗りしなさそうに声をかけます。そして、ちょっとちょっとと若奥様を脇へ呼び、
「捨て子じゃないの、」と声を落とします。
その後ヒソヒソと若奥様に耳打ちしながら、この辺ではままある事だからと、あまり関わり合わない方がいいよと注意します。
そうどすやろか?来ている服も質の良いもんやし、話す事もしっかりとしとります。きちんとした家の子や思います。
と若奥様は大奥様に自分の見解を述べてみるのでした。
お前がそう言うならと、大奥様もじゃあ私が話してみるわと、あんたじゃあ話が通じないだろうしねと言うと、
蛍さんに近付いて話しかけてみます。何処から来たの。?お名前は?
問いかけられた蛍さんは、正直に自分の姓名と住所を言いました。
おや、あそこの家にこんな大きな女のお子さんがおられたかしら。と、大奥様は不思議そうな顔をされました。
そこで私のお父さんのお名前は?と尋ねてみます。蛍さんが、私のお父さんの名前はねと答えた父の名を聞くと、
大奥様は、えっと酷く面食らうと共に、おやまあとほくそ笑んでしまいました。
あの気真面目でやたら固い事ばかり言っている人が、案外陰ではこんな事を仕出かしているものなのだ、
誰かもそうじゃないかと噂していたけれど、本とにそうだったんだわと、ぷっと吹き出してしまいました。
「おばさん、唾が掛かった、」
と蛍さんは膨れっ面をしました。