Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、148

2017-04-23 22:52:11 | 日記

 「ご随意にして頂いてよろしいですよ。要らない方はご遠慮なくお申し出ください。」

背広の男性は如何にも慣れたようにそう言うと、恰幅よく胸を張ってニヤリと笑いました。

 「おい、返さない方がいいぞ。」

やや慌てたように声を上げたのは、さっき封筒の中を覗いたお寺さんでした。

「中を見てからにした方がいいぞ。」

そう言うと、背広の男性に向かってにこやかにぺこりと頭を下げました。

彼は、はにかんだ笑顔を浮かべると、また宜しくお願い致しますと言う姿が、

先程の強面とは打って変わって如何にも少年らしく奥ゆかしく見えました。彼は嬉しくて仕様が無いと言った雰囲気です。

 そのお寺さんの機嫌のよい様子に、皆一斉に茶封筒を貰った者は、紙をごそごそいわせて中を覗いてみます。

菓子じゃないんだ。そんな声がする中で、菓子だ菓子だよと、封筒を持った者は足だけそろそろと動きを始め早く先ヘ進みたい様子です。

いやどうもどうも、気が変わらない内に、ごちそうさまです、等々言うと、

「後はこちらでちゃんと分けますので。」

と1人がにこやかに言って進み出ると、背広の男性の荷物を押しいただき、誠にありがとうございます。とお礼を述べて引き下がって行きました。

 後は皆ぞろぞろと引き上げて行きます。訳の分からない者には後で話すからとか、ちゃんと良いようにするから等話し、

石を磨いたご利益だ、良い目を見た、今日は実に良い日だ等言って、皆であっさりと境内の奥へと消えて行ってしまいました。

 お寺さん達が行ってしまうと、眼鏡の男性は背広姿の男性に対して、

「君ありがとう。助かったよ。」

と、にこやかにその労をねぎらって声を掛けました。

そして、目の前のこの男性は誰だろう、こうやって大枚叩いて助けに来てくれたのだから、私の親戚かしら?等々考えます。

 彼は眼鏡の奥からしげしげと彼の顔を眺めてみます。

そしてその目に幼い頃の面影を見出すのでした。

「おまえ、光か。」

そうだろうと言うと、眼鏡の男性、実は光君の祖父は孫の成長した姿に思わず見入ってしまいました。

 「如何してここへ、こんな事が出来るのか?お前未来から来たんだろう。」

そう言うと目を細めて、可愛い孫の成人した姿を眩し気に見やるのでした。

如何にも懐かしく嬉しそうな祖父の瞳とは対照的に、この時、光君は冷え冷えとした視線を祖父に投げかけるのでした。

 


ダリアの花、147

2017-04-23 18:21:46 | 日記

 この時、彼らの笑顔に要領を得なかった者何人かは、地面に書かれた文字に近付いて眺めてみます。

そうして、遅かれ早かれ成る程と、どうやら彼等の笑顔に合点しました。

ここで、お坊さん達皆の意見はまとまったようです。如何ほどお願い致しましょうか等にこやかに話しています。

 眼鏡の男性も頭の中で、先ほど上がった声の言葉を組み立てていましたが、

成る程と、何処の世もお金ねと、この世界での世事を心得るとほっと安堵するのでした。

 「それで、何方にどれだけお要りようです。」

名前と金額をお願いしますよ。と、ズボンのポケットから手帳を取り出しました。

程無くして彼とお坊さん達の間のやり取りが終わると、彼等は先程とは打って変わった態度で神妙にお礼など言うと、

男性に一斉にぺこりと挨拶しました。その後、ではと引き上げて行く気配です。ぞろぞろと境内の奥の方へ歩き始めました。

 後には眼鏡の男性と蛍さんだけが残りました。

「いやぁ、おかげさまで助かったよ。」

眼鏡の男の人ににこやかに声をかけられて、蛍さんもにっこりと笑顔を返しました。

彼女の頬には可愛いえくぼが1つ出来ました。それを見てうんうんと男性は頷き微笑みました。

 その時です、行ってしまう気配だった墨染の集団の中から、

「いや、俺は納得できない。」

と声が上がりました。こんな事で済ませていいんですか。という声も続いて出て、どうやら彼らはざわついて来ました。

「あの石を磨くのにどれだけ苦労した事か。」

「本当にあれが来るという保証も何処にあるんです。」

騙されているんじゃないですか。という声が聞こえて来ました。

うむと、彼らの中の年長者も、若年層の声を聴き意見を翻そうとした矢先の事です。何処からか背広姿の中背の男性が現れました。

 「皆さんお約束の物ですよ。」

と、手に持っていた茶封筒を見知った顔の2、3人にほいほいと渡すと、

「後の方は名前を言ったら取りに来てください。」

と、如何にも手慣れた采配の仕方でその場を取り仕切ると、彼は手に持ったリストを見て早速○○寺さんと呼びかけました。

 最初に茶封筒を受け取った1人が、その袋の表の手触りから、

「何だい、羊羹かい、菓子は要らないよ。」

と言うと、もう1人が俺は菓子は好きだと言って直ぐに封筒の中を覗いてみました。

 「俺も羊羹は好きだが、この場は菓子では誤魔化されないぞ。」

と、また別のお坊さんが言い出しました。

「こんな羊羹の2竿3竿。」

と不満げに言うと、俺は誤魔化されないからなと、

彼はその手に持った封筒をほいと元来た先に差し出して、背広姿の男性に返そうとしました。