「ご随意にして頂いてよろしいですよ。要らない方はご遠慮なくお申し出ください。」
背広の男性は如何にも慣れたようにそう言うと、恰幅よく胸を張ってニヤリと笑いました。
「おい、返さない方がいいぞ。」
やや慌てたように声を上げたのは、さっき封筒の中を覗いたお寺さんでした。
「中を見てからにした方がいいぞ。」
そう言うと、背広の男性に向かってにこやかにぺこりと頭を下げました。
彼は、はにかんだ笑顔を浮かべると、また宜しくお願い致しますと言う姿が、
先程の強面とは打って変わって如何にも少年らしく奥ゆかしく見えました。彼は嬉しくて仕様が無いと言った雰囲気です。
そのお寺さんの機嫌のよい様子に、皆一斉に茶封筒を貰った者は、紙をごそごそいわせて中を覗いてみます。
菓子じゃないんだ。そんな声がする中で、菓子だ菓子だよと、封筒を持った者は足だけそろそろと動きを始め早く先ヘ進みたい様子です。
いやどうもどうも、気が変わらない内に、ごちそうさまです、等々言うと、
「後はこちらでちゃんと分けますので。」
と1人がにこやかに言って進み出ると、背広の男性の荷物を押しいただき、誠にありがとうございます。とお礼を述べて引き下がって行きました。
後は皆ぞろぞろと引き上げて行きます。訳の分からない者には後で話すからとか、ちゃんと良いようにするから等話し、
石を磨いたご利益だ、良い目を見た、今日は実に良い日だ等言って、皆であっさりと境内の奥へと消えて行ってしまいました。
お寺さん達が行ってしまうと、眼鏡の男性は背広姿の男性に対して、
「君ありがとう。助かったよ。」
と、にこやかにその労をねぎらって声を掛けました。
そして、目の前のこの男性は誰だろう、こうやって大枚叩いて助けに来てくれたのだから、私の親戚かしら?等々考えます。
彼は眼鏡の奥からしげしげと彼の顔を眺めてみます。
そしてその目に幼い頃の面影を見出すのでした。
「おまえ、光か。」
そうだろうと言うと、眼鏡の男性、実は光君の祖父は孫の成長した姿に思わず見入ってしまいました。
「如何してここへ、こんな事が出来るのか?お前未来から来たんだろう。」
そう言うと目を細めて、可愛い孫の成人した姿を眩し気に見やるのでした。
如何にも懐かしく嬉しそうな祖父の瞳とは対照的に、この時、光君は冷え冷えとした視線を祖父に投げかけるのでした。