お寺の大奥様と蛍さんの父が話をしている間、若奥様の方も、もう1度蛍さんに話しを聞いてみようと思います。
「ねえ、あなた、蛍さんだったわね、嘘は駄目よ。」
さっきまで優しかった若奥様の方も、何だか自分を嘘つき呼ばわりして、生真面目な目つきで自分の顔を眺めて来るのです。
蛍さんは嫌な気分になりました。
蛍さんも若奥様に負けず劣らず、いたって真面目な方だったので、嘘を吐いたと言われる事はかなり情けない事だったのです。
ムッと来て思わず若奥様を睨んで仕舞いました。
その蛍さんの憤慨した顔付きに、この子は本当のことを言っているのだと若奥様は直感するのでした。
それで念のため、あそこにいる人はあなたのお父さん?と目の前の子供に訊いてみます。
彼女の答えを聞き、その様子を見て、真偽を判断したいと思うのでした。
「あの人はお父さんだけど」
さっき話したら、ホーちゃんのお父さんじゃないって言われたの。何だか知らない人みたいな冷た言い方で、
寄らないでくれって言って、知らんぷりして行ってしまったから、お父さんじゃないみたい。
だけどお父さんだと思う。でも、本当に知らない人みたいだった、顔だけ似てるのかと思ったけど、
お父さんにそっくりだし、でも違うのかなぁと、子供は困り果てています。
ホーちゃんのお父さん何処に行ったんだろう、ここでちょっと待っててと言って居なくなったのに、
ずーっと帰って来ない。と、しんみりとして全く元気がありません。
「お父さんとここへ来たの?」」
奥様は子供に聞いてみます。
蛍さんはそうだと言い、朝早くに目が覚めて気分がいいから、連休だし、いい所に行こうと言って連れて来られたのだと言います。
いいところねぇ、その言い方もあの姑と話す男の人が言いそうなことだと彼女は合点します。
寺をいい所だというというのも、あの人ならそうだと彼女には頷けるのでした。