別にこの子だって、別の世界の俺だって、自分に関わり合いが有る訳じゃないんだ。
あの人だって、本当の妹の舅じゃないんだし、親身に相談に乗ってくれていい人だと思っていたのに、
本とは全部嘘だったんだから、そう思えば、俺があれこれ向こうの人間の心配する事なんて無いんだ。
彼等が如何なったって、元々自分とは関係ないんだし、気にする事なんて無いんだ。
そう思うと彼は、
「ふん、余計なお節介をしても馬鹿を見るだけだ、彼是と思いやって損な事をしたもんだ。」
そんな事をむしゃくしゃして呟くと、ふと山門の下を見て、馴染みの茶屋に目を留めました。
ああ、お茶屋さんだ、久しく行ってないな、ここのお寺にもご無沙汰していたからなぁと彼は考え、
寺には後で、先ずは茶屋で一喋りしてからと、相変わらずそっぽを向いている蛍さんに
「じゃあね、お兄さんは用があるから。」
と吐き捨てるように言うと、後も見ずにそそくさと山門から出て行き、彼はそのまま参道を下って離れて行ってしまいました。
1人残された蛍さんは、やはり心細くて泣きたい気分でしたが、彼女1人ではどうしようもありません。
今の人がお父さんならよかったのにと思い、本当にお父さんじゃないんだなぁとまた半信半疑、
向こうへ下って行ってしまった男の人は本当は父じゃないんだろうかと疑ってみたりするのでした。
そこで蛍さんは行ってしまった父の後を追うように、山門から2、3歩出てみました。
しかしそれ以上彼の後を追う気になれず、さっぱり土地勘のない場所をうろうろする気にもなれず、
その場でしゃがみ込んで途方に暮れていました。そんな彼女にお寺の若いお坊さんが気付きました。
「さっきから1人でうろうろしてるけれど、迷子じゃないだろうか。」
捨て子かもしれない。そう2、3人の若いお坊さん達が集まって、ひそひそ相談を始めた頃、
お寺の奥から出てきたお坊さんが、おやっと彼女に気付きました。
そこで寄り集まっている若いお坊さん達に、君達の知っている子かいと聞き、
いや違う迷子じゃないかと話していたところだという返事を聞いて、それではと、
自分達の探している子かもしれないと彼女に近付いて問いかけました。
「君、ホーちゃんとか言うんじゃないの?」
蛍さんはそうだよと答えます。やはりそうか、よかったよかった、迷子が見つかったよと、
広い境内の奥に向かっておーいと声をかけました。