2人の男の人は、自分達に近付いてくる蛍さんに気付きました。
「君はそこにいてね、こっちに来てはいけないよ。」
蛍さんに駄目駄目と言うと、手で向こうに行っていなさいと山門を指差しました。それで蛍さんは仕方無く山門の所まで戻ると、
門の敷居に腰かけてホーっと溜息を吐いていました。退屈しのぎに絵でも描こうかと棒切れを探してみます。
丁度良い棒を見つけ、近くに咲いていた花の絵などを描いて、他に描く物は無いかときょろきょろと辺りを見回してみました。
彼女がふと気が付くと、門の傍らに眼鏡を掛けた男の人が1人立っていました。その人は蛍さんが初めてみる男の人でした。
彼は蛍さんに気付くと、躊躇いながら彼女に近づいて来ました。
蛍さんの傍に来る途中彼は溜息を吐いたりして迷っている感じでしたが、彼女の傍に来てもまだ話しかけるのを躊躇しているようでした。
「やあ、蛍ちゃんでしょう。」
蛍さんのすぐ目の前まで来て、漸く思い切って眼鏡の男性は彼女に声をかけました。が、それは酷く元気の無い声でした。
彼の顔は一応微笑んでいますが、何だか微妙に震えていて何かに怯えているように見えました。
蛍さんはこの男性が何かを怖がっているようだと感じました。それで私の事が怖いのかしらと勘ぐってしまいました。
「おじさん、私は怖い子じゃないわよ。」
おじさんに意地悪なんかしないから。と言ったものです。これには眼鏡の男性はエーっと非常に驚き、
次いでこの子は何を言い出すのやらとムカッと怒りの感情が湧いて来ました。
年端も行かない女の子に自分が気圧されていると勘違いされたのです。彼はすっかり自尊心が傷ついてしまいました。
きっ、と目に怒りを表しながら、
「私の何処が君の事を怖がっているように見えるんだね。」
と、ふんとそっぽを向いて、失礼なと、癇癪を起こして目の前にあった大きな石をドンと蹴飛ばす様に踏みつけました。
その様子が境内に居たお坊さんの何人かに見えたのでしょう、これを見咎めた数人が直ぐにばらばらと山門の外に飛び出して来ました。
そうしてこの眼鏡の男性を皆でぐるりと取り囲みました。驚いた事に、蛍さんもその彼等の輪に取り巻かれてしまいました。
「貴様、如何いう了見なんだ。」
「この寺に何か文句を付けようというのか。」
強面の大の大人数人に声を荒げて詰め寄られのですから、この男性は一たまりもありません。一遍でしょ気返ってしまいました。