Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 85

2019-10-23 11:56:30 | 日記

 その後は、祖母が祖父に対して口にする言葉、「返して返して」という口癖の様な言葉を私は時折聞く事になる。祖母は父に対しても同じ言葉を訴えていたが、父の方は頑として取り合わなかったようだ。そして彼女のその言葉は段々と強さが無くなり何時しか消えて行った。

 祖父の場合、「あの子がいなくなったら、お前さんその歳でこの家の事が全て出来るのかい。」とか、「あの子はもう帰って来ないよ、こうなった元々はお前さんのした事だろう。」等言うと、最後は「この家は、あれの切り盛りで暮らすしかないだろう。」と淡々と、そして少々つれない返事をしていた。最後は「我慢しなさい。」の祖父の言葉で締め括られた様だ。祖母は如何ともし難い立場に追いやられた様だった。

 また、後日、祖父母は彼等の自室で菓子箱の話で揉めていたが、私が居間で聞いていたところによると、如何やら羊羹の箱の大きさの話だったらしい。その中にだと何本入るか、バランスの良し悪しから何竿なら何個等、祖父母は問答を続けていた。

「結局のところ、何本持って行ったんだい?。」

そう祖父が問い詰めると、祖母は2、3本と答えていたが、この箱にと祖父は菓子箱を見せた様子で、この箱だと何竿入りで、何本入りそうだが、お前さんの言うバランスとやらを考えるとだよ。と言った。祖母はあららという感じだったが、祖父がねたは上がっているんだよ、向こうさんが私の方に持って来られてね、返して来られたんだよ、羊羹も、この箱でね。こんな事は困るという事だった。と続けると、新ためて妻に何本入れたのかと質問した。祖母は到頭観念したようで、小声で力なく何本と答えていた。うむと祖父が言ったので、如何やら数勘定は合った様子だ。

 「お前が余計な事をしなければあの子はこの家に戻って来たのに。」

祖父の話では、伯父の会社の支店で何カ所かに同じ要職の空きが幾つか有り、その支店でたまたま伯父の事を知っている上司が彼を手元に呼び寄せた所、偶然家から近い職場になったという事だった。

「お前が頼んだから近くになったんじゃないんだよ。」

向こうさんも何れバレると思ったんだろうね、それにお前が持って行ったその本数じゃあ気が引けたんだね。正直に返してこられたんだろう、お前の言った数と合っているからね。そう言って祖父は深々と溜息を吐いた。祖母の方は、じゃぁ、じゃぁ…。と声を詰まらせていた。部屋はしんみりとした空気に包まれた。

 私は「羊羹」「持って来られた」の言葉に聞き耳を立てると、すかさず居間から階段下の部屋に移動して祖父母の部屋を窺った。いざ彼等が頂き物の羊羹を食べようという時には、いち早く彼等の部屋に打って出て、私はまんまとお零れに与ろうと算段していたのだ。しかし彼等の雰囲気が、こんな頂き物の菓子を食すという時には通例の慶賀で歓喜な雰囲気では無くなって来て、反対に妙に沈んだ物となってしまったので飛び込む機会を失った。何しろ、祖父母は当の菓子を食べる気配が無いのだ。甘味に釣られ右往左往、思い迷った私は

「羊羹が有るんでしょう。」

と声掛けすると、食べようよと、祖父母にお茶を促す声を掛けた。


うの華 84

2019-10-23 09:50:47 | 日記

 その年の年末、確かな事に、私は父から呼ばれると障子戸の前に立った。障子は居間からでは無く祖父母の部屋の方向から張り替えられる様だ。父は1人障子戸の前にしゃがんでいた。襖からは桟だけが外され畳の上に置かれていた。

 私は父から水の入った糊を練ってくれとか、刷毛で桟に糊を塗ってくれ、等言われた。が、この後私の作業は真似程度の仕事量で済んだ。何故なら直ぐに祖母に言われてやって来た母と交代する事になったからだ。この私の最初の障子貼り作業は、私にすれば遊びの様な感覚で楽しかったのだが、私には訳が分からない内にお役御免となった。

 次の年は桟が糸で修復された襖で過ぎる事になる。大掃除の時に折れたのか、翌年やはり穴が開いた後に私の両親が張り替えた時折れた物か、私が気が付くと、折れた細い桟が糸で数巻き結わえられて結合されていた。その上から障子紙が貼ってあった。

 「どう思うかい。」

祖母に呼ばれてその桟の問題の個所を示された私は、私自身の持った感想を聞かれた。

 実際、私がこの桟の異常に気付いたのはこの時より前の時点だった。最初に気付いたのは居間方向から見た時だった。桟の陰が微妙な膨らみを帯びていたので、不思議に思った私は、襖の裏側に回ってこの修理箇所を発見したのだ。発見した当初、やはり最初の最初はかなり衝撃的だった。それは穴が開いた時よりも酷かったかもしれない。いけないんだとか、私じゃないとか、何より自分の責任にされる事を私は恐れた。が、家の大人、特に父からその後何の声掛けも無く過ぎて来ていたので、私の方も徐々に安心し、この桟の痛んだ指の様な有様に慣れた。

 「これを見て、あんたはどう思うかい。」

祖母が再び聞くので、私は何か言おうと思ったが、如何いう訳か感想が出てこない。如何と言っても、痛んでいるというくらいの感想しか出てこない。その後は出てくる言葉が無いので困ってしまった。障子戸の前で弱る私に、祖母はははぁんと言う。「あんた…、」と言われるので、私は自分がやったと彼女に思われたのだと思い、「私じゃない。」と祖母の言葉を遮った。すると祖母は否々と手を振ると微笑みながら

「あんたもう知っていたね。」

と言う。もう見慣れていたね。気付いていたんだ。と彼女は言うと障子戸に目を移し、その修復された桟の説明をしてくれた。これは祖父の修復した痕だったのだ。彼女は微笑しながら

「上手い事直してあるだろう。こんな事が出来るんだねぇ。」

私の知っている中に今迄桟を壊した者がいなかったから、障子の桟がこんな風に修復できるなんて知らなかったんだよ。彼女はそう言うと、お父さんが知っていてくれて助かったと安堵した様子になった。そしてちらちらと障子戸のあちらこちらを点検すると、

「今まではね。」

ぽつりとそう言った。

 祖母はぼんやりと障子全般を見詰めているようだった。

「こんな物、恥ずかしくて修理にも出せやしない。」

彼女は指で桟の折れた傷を撫でるとその顔付を強張らせた。彼女はその後何だかピリピリして来た。

「あんたが壊したんじゃない事は知っているよ。これが壊れた時私が傍で見ていたからね。」

そう言うと、祖母はにこりとして私に笑いかけてくれるのだった。

「知ちゃんが壊していない事はちゃんと知っているからね。」

彼女は私を安心させるように言ってくれたのだった。


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2019-10-23 09:48:51 | 日記
 
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 良いお天気になりました。秋晴れです。