私と祖父が縁で話をしていると、祖母が戻って来た。祖母は私達が仲良く話をしているのを見ると頬を紅潮させた。
「あんたさん達、何だか仲がよろしいですね。」
等言う。祖父は笑顔で、おお、お前戻って来たのかと言った。祖父は何だか嬉しそうに、
「お前、良い孫をつれてきてくれたなぁ。」
と言う。祖母は訳が分からない様子で、何の事でしょうと尋ねていたが、祖父がこの孫が私の事を気遣ってくれたのだと言い、こんな事子供達の時には無かった、孫になって初めての事だよ、と言うと、如何にもいやぁな顔をした。嫌味ですか。ぽそりと祖母は力なく言った。嫌味?祖父が今度は訳が分からないという顔付になった。彼の表情から微笑みが消えて、妻の顔をじっと見詰めると、
「私がお前さんに嫌味を言った事があったかね。」
と問い掛けた。すると祖母はハッとした表情で、周囲を見回すと、「ここは、…縁ですね。」と自分に言い聞かせるように言った。
祖父は祖母のそんな半ば放心状態の様子を気遣って言った。「何かあったのかい?。」
その後の祖母の話で、母は祖母の手には負えず父に任せて来た旨を聞いた祖父は、「おまえさんでも?!。」と驚いていたが、へぇぇと、世の中には不思議な事が起こるものだな。孫と言い嫁と言いと、その後は疲労した顔付の妻の様子に気を使うと、祖父は彼女の肩を抱えるようにして2人の自室に入った。そしてすぐに縁との続きの障子戸をぴしゃりと後ろ手に閉めてしまった。その時の祖父は私ににこやかな一瞥もくれる事が無く、その表情は硬く強張っていた。
「坊主憎けりゃ袈裟迄か。」
そんな物かもしれない。そんな祖父の声が障子の向こうから聞こえて来た。私はまた1人縁側に取り残された。今回の私は何を考えたいという考え事も無く、1人暇を持て余して庭を眺めたりしていたが、妙に気分は沈んで来て、土間に有った大きな大人用の下駄の鼻緒の片側に、小さな足を引っ掛けるとよいせと歩き出してみた。私はよろけて土間にそのまま転がったが、それでも試しにもう2、3歩と歩いて行き、よろけながらも土間の出口に到達した。私は開いていた戸に手を着くと明るい中庭に目を遣った。モチノキの白っぽい幹には何やら緑の平たい葉を持つ直物が絡みついていた。それは緑の螺旋の途中である先端に小さく柔らかそうな新芽をつけて、弱そうに見える色でいて、それでも力強く頭上へと伸びようとしている様に私には見えた。