Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 66

2019-10-03 17:01:34 | 日記

 私と祖父が縁で話をしていると、祖母が戻って来た。祖母は私達が仲良く話をしているのを見ると頬を紅潮させた。

「あんたさん達、何だか仲がよろしいですね。」

等言う。祖父は笑顔で、おお、お前戻って来たのかと言った。祖父は何だか嬉しそうに、

「お前、良い孫をつれてきてくれたなぁ。」

と言う。祖母は訳が分からない様子で、何の事でしょうと尋ねていたが、祖父がこの孫が私の事を気遣ってくれたのだと言い、こんな事子供達の時には無かった、孫になって初めての事だよ、と言うと、如何にもいやぁな顔をした。嫌味ですか。ぽそりと祖母は力なく言った。嫌味?祖父が今度は訳が分からないという顔付になった。彼の表情から微笑みが消えて、妻の顔をじっと見詰めると、

「私がお前さんに嫌味を言った事があったかね。」

と問い掛けた。すると祖母はハッとした表情で、周囲を見回すと、「ここは、…縁ですね。」と自分に言い聞かせるように言った。

祖父は祖母のそんな半ば放心状態の様子を気遣って言った。「何かあったのかい?。」

 その後の祖母の話で、母は祖母の手には負えず父に任せて来た旨を聞いた祖父は、「おまえさんでも?!。」と驚いていたが、へぇぇと、世の中には不思議な事が起こるものだな。孫と言い嫁と言いと、その後は疲労した顔付の妻の様子に気を使うと、祖父は彼女の肩を抱えるようにして2人の自室に入った。そしてすぐに縁との続きの障子戸をぴしゃりと後ろ手に閉めてしまった。その時の祖父は私ににこやかな一瞥もくれる事が無く、その表情は硬く強張っていた。

 「坊主憎けりゃ袈裟迄か。」

そんな物かもしれない。そんな祖父の声が障子の向こうから聞こえて来た。私はまた1人縁側に取り残された。今回の私は何を考えたいという考え事も無く、1人暇を持て余して庭を眺めたりしていたが、妙に気分は沈んで来て、土間に有った大きな大人用の下駄の鼻緒の片側に、小さな足を引っ掛けるとよいせと歩き出してみた。私はよろけて土間にそのまま転がったが、それでも試しにもう2、3歩と歩いて行き、よろけながらも土間の出口に到達した。私は開いていた戸に手を着くと明るい中庭に目を遣った。モチノキの白っぽい幹には何やら緑の平たい葉を持つ直物が絡みついていた。それは緑の螺旋の途中である先端に小さく柔らかそうな新芽をつけて、弱そうに見える色でいて、それでも力強く頭上へと伸びようとしている様に私には見えた。

 


今日の思い出を振り返ってみる

2019-10-03 16:54:30 | 日記
 
土筆(213)

怖そうに、まるで他所の知らない男性を見るような目つきで自分を見上げる孫に、祖父はこれはしまったと思いました。またやってしまったと後悔しました。それですぐに、孫に向かって少しですが顔......
 

 台風が近付いている今日です。もう熱帯低気圧に変わったでしょうか。時折雨がぱらつきます。この台風が去れば、一気に秋の色が濃厚になるようです。


うの華 65

2019-10-03 14:18:14 | 日記

 父の方は、ムッとした表情をしていたが、押し黙った儘で自分の母親に対しては何も文句を言わなかった。私はそんな父の顔を見上げて、この時何かしら思う所があった。私なら、母にしろ父にしろ、2人から何かしら気に障る事を言われたならば、だって、とばかりに必ず言い返す場面だ。そう思うと、親に対して何も言い返さないという、子供の立場での父の態度を偉いと感じたのだ。父は常日頃から孝徳についてもあれこれと私に説教をしていた。私が未だ幼いと思うせいか、父持論の自由思想のせいか、彼は親である自分に対して言い返してくるという私の自由を容認していた。私は父に文句を言っても何の叱責を受けるという事も無く来たのだ。

 私は黙って俯くと、父と祖母の傍らで1人考え込んだ。そして2人の親子間の遣り取りに耳を傾け、その遣り取りの様子について観察し、親子の相関関係について学ぼうとしていた。

「あらあら。」

祖母がそんな私の沈思黙考する様子を、父に叱られてしょげているのだと誤解した。または、自分達2人の遣り取りを喧嘩していると私が思い、その雰囲気を怖がっているのだと思ったようだ。私の様子に配慮した祖母は父との話を切り上げると、

「お前、それであの子は如何言っているんだい。」

と母の言い分を父から粗々聞くと、私が話してみるよと廊下へ向かい、台所の方へと姿を消した。父は暫く私といたが、そわそわし出すと、さっとばかりに廊下に出て、母の後を追うようにたーっと台所の向こうへと行ってしまった。私は縁側に1人取り残された。

 1人になった私は、この孤独な時は考え事に丁度良い間だと考えると、直ぐに直前の自分の目の前で起こっていた父と祖母の親子の掛け合いを思い出してみた。そして幾つかの場面に自分と父との場合を当てはめると、ああいった場合は自分ならこう言うが、父の場合はこうだったとか、あんな時自分は文句を言ってしまうが父は黙っていたとか、どれが如何よいか、自分の中で親子間の対処の仕方を判断し、選択し、どれを自分の対処法とするかを決定していた。すると、何時しか部屋の上り口に祖父の姿が現れた。

 祖父は縁側の様子が分かる所まで来ると私が縁に1人ポツンといる事に気付いた。

「おや、智ちゃんじゃないか。」

そう言うと、びっくりしたよ、1人でこんな所にいるのかい?。と声を掛けて来た。私はこくりと頷いた。祖父は私に向けて微笑んだが、その微笑みには無理があった。彼の頬が引きつっていたので、私は祖父も緊張しているのだと分かった。祖父は直ぐに何を話していいのか思い付かなかったようだ。気を取り直したように、

「びっくりしただろう。」

お父さんとお祖母ちゃんが言い合いをしていて。と言ったが、私はううんと首を横に振った。

私が、父と祖母で親子間の遣り取りを学んでいたというと、祖父は呆気にとられたらしく口を大きく開けた。一寸怖気ずいたように身震いした。そして私の事を偉いなぁと喜ぶどころか、落胆した様子で下を向いた。

「孫迄こんな事になるとは。」

力なく祖父は呟いた。

 彼は立っていられなくなったらしくて部屋の上り口に腰を下ろし、縁側へと足を下ろした。がっくりと座り込む祖父に、私は彼は具合が悪いのだろうかと考えて声を掛けた。

「お祖父ちゃん、具合が悪いの?。水でも持ってこようか。」

そう心配して尋ねると、祖父は何だか落ち着いた静かな微笑みを浮かべ、目を細めた。

「お前、人らしいことを言ってくれるね。」

そんな事を言う。私は祖父の言葉に、自分は人なんだから当たり前の事だと思った。それでも、何が人らしい事なのかと彼に尋ねた。

「だって、それ、お前はお祖父ちゃんの事を心配してくれたんだろう。」

それはそうだ、元気が無くて具合が悪いのかと思ったからだと私が言うと、祖父は再び嬉しそうな笑顔を浮かべると、

「だから私に水を持ってこようかと聞いたんだろう。」

と言うので、私はそうだよと、それは当たり前だとばかりにしたり顔で合点した。

「それでこそ人という物だ。」

そうなんだよと、祖父は何だか嬉しそうに私に語り掛けるのだった。