その年の居間の障子襖が1度張り替えられて以降、気候の良い時期、日々私は盛んに外遊びに興じていた。毎日のように近所のお寺へも頻繁に遊びに出かけ、近隣を走り回り、日増しに世間の事を覚え体も逞しくなって行った。身長も伸びた。
そんなある日の事だ、張り替えられた障子にまた穴が出現した。私はまたかと思ったが、やはり衝撃を受けた。今年になって2回目だ。少々あっけに取られて障子の前に佇んだ。そんな私の前に廊下から父が現れて、私と顔を出くわすとハッとした表情になった。暗い顔が明るくなって何かが彼の脳裏に閃いた感じだった。
今回はもう父もとうに犯人の目星がついているはずだ。私はそんな点安心していたが、この時の父はやはり私にこれはお前かと確認して来た。勿論私は違うと答えたが、父は何やらそうかとも違うだろうとも言わずにやや考え込む風で黙っていた。その後ふんむと合点とも不満ともつかないような相槌を1つ打つと、彼は納得のいかない様な、後ろめたい所がある様な表情をして少々顔を赤らめた。
「実はお父さんは犯人を知っているんだが、」
父はそう言うと、お前がした事にしておかないか、と言った。えーっと私は内心嫌な心持がした。半分程だ。何故なら見ていなくても私にはこの穴の犯人が誰か想像がついたからだ。それは母だなと咄嗟に思った。父は母を庇おうというのだ。その事も想像がついた。
「あれも何の不満が有るのかなぁ。」
父は首を捻りそう口にすると、この穴が開いた時、自分は2階の窓から穴が開く瞬間を目撃していたのだ、と私に告白した。私は溜息を吐いた。それなら何故私に事の真偽を確認したのか、分かり切った事を何故にまた?と思ったのだ。父は穴を前に何だかしょんぼりしていたが、私の嫌そうな顔と首を横に振る姿に、やっぱりなと肩を落とした。
私にしても、いくら母の為だとはいえ濡れ衣を着るのは気が進まなかった。その上、新しい穴を見詰める内に、私の脳裏には昨年の穴が開いた当初の出来事、父から嫌疑を掛けられた遣り取りや、最初に母に抱いた険悪な感情が蘇って来た。それなのに、それなのに父は私に悪いとも思わず、あの母の罪を被れと言うのだ。私はそう合点すると、ムラムラと怒りが湧いて来た。私はむかむかした顔つきになると、首を左右に振り振り台所に進もうと歩み出した。すると父は、
「おいお前、お前にも悪い所があるんじゃないのか。」
と声を掛けて来た。この障子に穴が開いたのはお前のせいでもあるんじゃないのかと父は言うのだ。殆ど外遊びに出て家に居ない私の事だ、母に何の世話を掛けているというのだろう?。今回は障子戸の向こうも気にしてはいない、母とはこの襖関係の事で何の話もしていないのだ。私は即座に答えた。
「何にも無いけど。」
ムカムカした私はついでに、「それはお父さんのせいでしょう。」と嫌味たっぷりに言い返した。