Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 64

2019-10-01 18:34:08 | 日記

   母が私では埒があかないと言いだした。そこで私は母に言われて父を呼びに行く事になった。廊下を戻ると父は先ほどの場所に未だいた。縁側に立って庭を眺めていた。私が縁に立つと彼は晴れ晴れとしたにこやかな顔を私に向けた。

 彼は私の首尾の具合を聞いて来たが、「どうだ、上手く行ったんだろう。」と言うものだから、私は難しい顔をして首を横に振った。父は、これはまたという様に意外な顔をした。そして変だなぁと呟いた。大抵はこの方法で上手く行くんだがなぁと言う。父にすると何かしら自分が諭した後、誰か別の人物が指図なりしに行くと、諭した相手は上手く自分の予想通りに動くものだと考えていたらしい。

 「お前では采配出来なかったのか、情け無い奴め。」

と言われても、年端も行かない私に采配させる方が間違っているという物だ。だから私は前以て、子供の身の私が大人に指図してよいのかと聞いたのだ、と父に文句を言った。母はやはり私が予想した通りの態度だったと父に告げた。そして母が動かず不機嫌なのは私のせいでは無い、父が子供である私に命令するような事を言わせたからだと、ここ迄言うと、もういいと父は顔を赤らめた。父は「お前あいつに似て来たなぁ。」と言うと、頬を赤らめたまま渋々廊下に出て台所の奥へと消えた。

 父が母の所に行ってから、私は縁側に腰を下ろしてその儘中庭を眺めていた。戸外は晴れており、紅葉や松やモチノキ等の緑が滴る様で美しかった。中庭のほぼ中央にある丸い飛び石が、並んで庭の奥に有る高木の松の木迄続いていた。私はこのまま庭に降りて、その丸い石々を伝い歩こうかと考えたりした。

 「お前、父さんである私を飛び越えて、この家の主になる料簡なんだって?。」

父がやや赤黒い頬を携えて、極めて真顔で縁側の入り口に立つと私にこう言った。

「未だ父さん、お前のお祖父さんだっているというのに。」

そんな事を言って、「いけないなぁ、一体如何いう料簡なんだ。」と言う。

 私は父の言葉中に母の言葉を見い出した。そして2人の言葉を総合して考えると、母が父に私が思ってもいない事を考えていると言ったらしいと想像出来た。やれやれと気分的に疲弊した私は、父に言い返す元気も起きなかった。私はそう、とだけ呟くと、溜息を1つだけ吐いた。

 そうってお前なぁと、父は勢い込んで私の傍に来ると自分の子供の説教に掛かった。私はまたかと父の誤解を受ける事態に嫌気が差した。何か否定する言葉を言おうかと考えてみたが、母の相手の後の父だ、疲れ切っていた私の頭には何も思い浮かばなかった。首を垂れて沈み込む私にそれ見た事かと父は益々勢い込んだ。

 「お前なぁ…」

父が威勢よくここ迄言ったところで、

「ちょっと待ちなさい。」

と縁側と続きの部屋の、障子戸の向こう側から祖母が父を制する声が響いた。

「その子はそんな事を考えてはいないと思うよ。」

祖母は部屋の内側からこう自分の息子に声を掛けた。

 私の父は自分の母の声に、「母さんはそんな事を言うけれど、あれの話では、これはあれに対して酷く尊大な態度だったという事だ。」と悪びれる事無く言い返した。すると祖母が畳を歩く気配がして目の前の障子戸がガラリと開いた。私が見ると、祖母も酷く生真面目な顔付であり、その面差しは真剣な眼差しをしており、私の父でありまた自分の息子でもある男性の顔を見詰めていた。

「お前は、私にその子にいいように操られていると言ったけれど、」

ここで祖母はちらりと私に冷たい一瞥をくれたが、

「お前の方こそ、あの娘にいいように牛耳られているんじゃないのかい。」

と言ってふふふとほくそ笑むように息子を嘲笑した。


うの華 63

2019-10-01 09:40:15 | 日記

 それにしても、と母は言った。

「お前の前に、代はあの人だろうに。」

何故飛び越えてお前の代が来るんだい。そんな事を言って彼女は如何にも不服そうな一瞥を私にくれたが、解せないねぇと言うと、しかもあの人が自分でそんな事をお前に言うなんて。と盛んに首を捻り出した。

 私は母の言う言葉が一々分からないのと、母がそんな訳の分らない事を言ってばかりいて、一向に食事の用意に取り掛かる気配が無いので段々と苛々して来た。

 「お母さん、そんな事より食事の用意が先じゃないの?。」

私は母の取り掛かるべき仕事の最優先事項を示す為に促した。「こんな事をしていたらお祖母ちゃんに叱られるよ。」とも付け足した。すると母は、「あの人が、」とかなり驚いた様に言った。

「あの人に叱られた事なんて…。」

と母は意外そうに言うと、私から顔を背けて、ふんとばかりに「無いけどね。」と言った。

 この母の言葉に私は驚かされた。私はてっきり、常々この何でも間に合わないタイプの母は、嫁失格だとばかりにあれこれと祖母の方から重々糾弾されているとばかり思っていたからだ。ここで私は、何故祖母は母を叱らないのだろう?という疑問が生じた。私の方にはあれこれと、直接では無いにしろ父を介して迄、彼女が色々と指図してくるらしい事を常々私は感じていたのだ。だからこそ、私は同じ様に母に対しても、彼女が直接、又は父経由で自分の意向を伝えて来ている物だとばかり思っていたのだ。否、寧ろ、自分より出来の悪い母の方の事だ、返って直接祖母の指導を受けている事が多いのだろうとばかり思っていた。

 あれぇ?と私は思った。そこで思った事をズバリ母に聞いてみることにした。

「お母さんて、何でも出来無い人でしょう?。」

すると母はにやりと口元に笑みを湛えた。そして顎に手を遣り考える風で一寸間を開けたがこう答えた。

「お母さん、割と何でも出来るのよ。」

彼女はツンとした取り澄ました感じの声と雰囲気で私に答えたので、思わず私は開いた口が塞がらないという顔で母の顔を覗き込んだ。

 そんな呆れ顔の私の前で、母はとり澄ました顔で背筋を伸ばすと上品な微笑を浮かべた。

「皆さん、よく出来る嫁だと褒めて下さるの。」

とこれまたお上品な口調で彼女は披露した。私がしげしげと彼女を観察すると、彼女は両足を揃えて脇へ流し、両手を手前で品よく組み合わせてまでいるのだ。この母の常日頃とは全くかけ離れた状態に私は恐れ入った。今迄こんな母を見る事は皆無だった。一体彼女は如何したというのだろう?。

 と、沈黙と間があったと思ったら、母はぷっと吹き出して、はぁっはははと笑いだした。そしてそれがくすくす笑いに変わると、

「如何、可笑しかったでしょう。」

等と自分で言い出した。彼女は自画自賛すると上手いもんでしょうと言う。彼女の言う何が上手いのか私はてんで分からなかったが、私には先の母の態度が何時もと違い、彼女の声音や仕草等も何時もとは相当かけ離れていた事から、多分、誰かの物真似をしていたのだなと気付いた。

 そこで、そうだね、上手かったよと言うと、とても上品で良いお家のお嫁さんそのものだったと褒め上げた。褒めながら私は彼女が、多分そんな出来の良いどこぞの嫁の真似をしたのだろうと勘付いた。

「きっと、そんなお嫁さんになってもらうのが祖母や父の理想なんだろうね。」

と私は母に言った。理想、かつて父は夢の様な物と私に言っていた。父は理想化だった。否、夢想家だったのかもしれない。 


今日の思い出を振り返ってみる

2019-10-01 09:37:15 | 日記
 
土筆(212)

 本とにこんな事を言う言葉なのだねと、そんな事を力なく言い、祖母はしょんぼりした感じで力なく佇むのでした。そんな部屋の物静かな雰囲気を感じたのでしょう、次の部屋から蛍さんの祖父がふ......
 

 良いお天気です。壁のメンテナンスの塗装工事も始まり、ホッとしています。後は台風の被害が無いようにと願っています。工事が無事に終わりますように。