Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 28

2019-08-05 08:43:04 | 日記

 母は少々驚いた顔をして振り向いた。私の顔をじっと見ると、

「おや驚いた。少しは物事が関連して考えられるんだね。」

と言った。

 母はそれでいいんだよと言うと、去りかけた足を戻して再び私の傍に来た。そうして、自分は指の手品なんかしていないんだよ。と言うと、ちゃんと部屋の中が分かるようにして上げただろう。と言うのだった。

 えっと私は驚いた。何処に?、何時?、と言うと自分の周囲をきょろきょろと見回してみた。勿論障子にも目を遣って、上から順に眺め始めた。見通しの邪魔になる障子の紙は依然として健在だった。

 「そこじゃないよ。」

母は私の視線の先を違う場所だと指摘すると、お前の見詰める場所はここだと言わんばかりに障子の中段の位置を指さした。私は母の言う場所らしい付近を見詰めてみた。やはり障子紙は一向に透けて見えず、白い紙面を私に晒していた。首を傾げる私に、やっぱりちょっと鈍いんだねぇと、母は私の横に屈みこんだ。障子を見詰めている。

 「ちょっと高かったかね。」

お前の目から見えない位置かもねぇと、母はそう言うと、ここだよと障子のある部分を間近に指さした。私がその指さす一点に目を凝らし、よくよく眺めてみる。

「障子でしょう。」

曖昧な口調で答える私に、見えにくい位置なのかねぇと母は言う。

「そのせいで、中が分からないのだ。」

と私が言うと、母は呆れたという様に、これでどうだいと障子から自分の指を遠ざけた。そして、そこに穴が有るでしょう。といった。私が母の指が有った場所付近の白さに目を凝らすと、漸く丸く開いた直径1㎝程の穴が目に映って来た。

『穴だ!』

驚きと共に思わず母に目を転じると、彼女は朗らかに明るく優しい顔で微笑んでいた。

 「その穴から中が見えるでしょうに。」

自分の笑顔を私の顔に寄せて、労わるようにこう私に言うと、やれやれと言う感じで背筋を伸ばした彼女は、これで一件落着という様な安堵感に包まれた。

 「穴…、障子に穴が…。」

再び障子の穴を見詰めた私は、押し寄せて来る衝撃の波の中にいた。障子に穴が開いているのだ!。ピンと完璧なまでに綺麗に貼り整えられた障子に、恰も欠点の様に1つ、汚点にさえも見える穴が1つ穿かれているのだ。事態が漸く理解出来た私は大きな口を開けて驚愕した。

 「お母さん、これって、お母さんが開けたの!?。」

そうよ、さっきまでこの穴無かったでしょうと母は得意げに言った。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-08-05 08:41:09 | 日記
 
土筆(150)

 「ほー、ホーちゃん余裕だな。」蜻蛉君が真顔で声を掛けました。「一寸勝ったからって、武蔵じゃあるまいし。」茜さんも機嫌の悪そうな声でぼそぼそっと呟きました。2人は遅......
 

 今日も暑くなりそうです。


うの華 27

2019-08-04 10:50:58 | 日記

 お前本当に分からないのかい。そう言うと母は、私との間を詰めた。そして前屈みになって自分の顔を私の顔に近付けた。母は自分の子供に言い聞かせるように、ねぇと言うと、

「今、私達は何の話をしていたかな。」

と聞いて来た。私が指の話だと言うと、その前は?と言う。『その前?』私は考えた。手品の話だろうか?。

「手品を教えて欲しいという話?。」

母はげんなりとして視線を落とした。子供というのは難しいものだ、彼女はそんな言葉を漏らした。思案顔で「如何言ったらいいのかしらね。」と、独り言のように言う。彼女はその内ふと顔を上げて微笑むと、

「お前さっき迄何をしてた?。」

と聞く。何をしていただろうか?私は記憶を少し思い返してみる。

 していた、という事は行動だ。私は動いている行為で思い当たる場面を数カ所頭に浮かべた。何をしていたかだから…と、私はこの場合の、大人から与えられた質問の答えにはどの場面が一番よいのだろうかと迷った。直近の目立つ行為がよい。大きな出来事の方だ。と私は考えた。

   「食事!」

私は脳裏に浮かんだ光景の中から、自分が食卓について1人家族に遅れ、口を動かしあくせくと食事をしている場面を選んだ。時間が一番近くて目立つ行為だ。母の質問している答えはこれだ!、これでよいと私は思った。

   この私の答えに、表情を変えずにすーっと半身を起こして身を引いた母は、はーっと諦め顔になった。これは如何にもならないと思ったのだ。

「本当に…、」

と彼女が言葉を止めた先には、正直、『馬鹿だね。』が入るような気がこの時の私にはした。

「答えはそれでいいでしょう?今から一番近い時間で動いている事だもの。」

していただからと、私は不自然な作り笑いを無理に浮かべて母に微笑んだ。

 「物ごとの繋がりが分かってないんだねぇ。」

この子は。この時期の子はそうなのかしら。お前だけかしらと母は思案顔になった。そしてもういいわと言う態度に変わった。

「ちょっと難しかったらしい。」

この件はこれでお仕舞にしようと母は言った。私な何だか今行われた母子の事態がスッキリと収拾せず終わるので、物事が理解出来ないという未消化な状態に不満を持ち、嫌な気分がした。が、万時これでお仕舞という母の態度から、これ以上はどうにもならないと感じた。そこで1人、今迄の母と自分の遣り取りを思い返してみた。

 私がこの場所にいたらお母さんが来たんだった。またここにいたのと言って…。と考えて私はふと気付いた。

『お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが食後に部屋にこもって何をしているのか? 』

こう私は疑問に思って、何時もの様にこの障子の前にいたんだ。そこでお母さんは気になるならと、良い方法を教えてあげると言って、…何故手品をしてみせたのだろう?。何故だろうか?私は去ろうとする母に急いでこの質問を浴びせた。この疑問にだけでも彼女からきちんと答えを貰いたいと思っていた。

「お母さん、私は部屋の中が知りたかったのに、お母さんは如何して指の手品なんかしたの?」


今日の思い出を振り返ってみる

2019-08-04 10:41:15 | 日記
 
土筆(149)

 お寺の境内には石碑があり、石碑の足元には遊び仲間の人数分の穴が開いていました。各自自分の穴を掘り、その自分の穴に向かって各々順番に小石を転がします。何回石を転がすかは最初に決めて......
 


 こちらは七夕祭りの真っ最中です。今晩は毎年恒例の庄川花火大会が有ります。夏の風物詩ですね。


うの華 26

2019-08-02 08:40:02 | 日記

 「どうやったら指を長くしたり短くしたり出来るの?」

私は目を輝かせると喜々として、母の演じた指を伸び縮みさせるという見事な手品の技の秘密を尋ねた。

 急に愉快に笑っていた母の笑顔が引っ込み、眉に皺を寄せた神妙な顔付きに変わった。

「指?、って…。」

お前、指の話なんてどこから出して来たんだい。と、解せないという顔付きで母は反対に私に問い掛けて来た。

「今、指が短くなって、また長くなったじゃないか、お母さんの指。」

私は母の指の話だと言うと、教えて、ね、その方法を教えてと、こういった事に対して子供に常の、非常な好奇心に駆られる儘に抑え難く、いかにも彼女におねだりするのだという風に頼むのだった。

 すると母は、ほうっと一つ溜息を吐くと肩を落とした。そうして暗い表情で俯いた。その姿はしょんぼりとして落胆する姿でしかなかった。

「とんだお馬鹿さんだったのだ…。」

そんな事を呟くと、彼女の表情の中に怒りの感情が湧いているのを私は察知した。何故だろうか?。私は今、喜々として目の前でおこなわれた母の手品を褒め上げたではないか。母が怒る要素等全然無い筈なのだ。

   「如何したの?、お母さん怒ってる?。」

それなら、何故怒っているのかと私は尋ねた。母は、お前私の言う事を聞いていたのかと言い出した。本当にぷりぷりとした様子だ。私はキチンと聞いていた。だから真剣に母の言う通り指を見詰めていたのだ。私はその事を順序立てて話した。そうして見た通りその儘に実演してみせた。

   ね、ちゃんとお母さんのした通りに出来たでしょう。そう言うと、母は渋い顔をしてそれはその通りだけどね、と、余計に顔を曇らせると一人考えの淵に暗く沈んだ。

   暫くして母は、

「話を聞くのは聞くで、それで出来ているのだろうけど、…。」

と、言いにくそうに、お前何だか鈍くないかいと言う。今度は私が腹を立てる番だった。

   何を言うのか、私はお利口さん、賢いと言う事で通っているのにと反論すると、母はさも可笑しそうに紅潮した私の顔色を伺っていたが、

「それは家の中だけの事だ。」

そうなんだねぇと言って、心得た、ここぞとばかり、唖然とする私の顔が如何にも間抜面で可笑しい、さも可笑しいと言う風に口に手の甲を当てると、ヒャハハ…、と声に出して笑った。

   私はこの母の態度に、子供といっても如何にも相手に馬鹿にされ、非常に嘲られたのだという状態が察しられた。カッ!とばかりに赤面すると、それは母がきちんと自分に理解出来るように説明しないからだ、子供にちゃんと分かるように説明しろ、初めての事は簡単に言ってくれないと分からないだろう、と、口から泡を吹くような勢いで、矢継ぎ早に攻め文句を言った。