眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

助演オーディション

2024-10-27 21:26:00 | 短い話、短い歌
「何か特技はありますか」
 求めに応じて歌い出す者、踊る者、楽器を弾く者、空手の形をみせる者、剣玉をする者、物まねをしてみせる者。みんな周到に準備してきたようだ。今回のオーディションにかける意気込みが感じられる。

「何か特技をみせてもらえますか」
 いよいよ僕の番がやってきた。
「何もありません!」
 わからないことはわからない。できないことはできない。無理せず、背伸びせず。それが我が道というもの。

「高いところから飛び降りたりできます?」
「できません」
 猫ならみんなができると思うなよ。
「おでんとか上手に食べれます?」
 はあ? 誰に言ってんだい!
「できませーん」
 それから似たようなリクエストが続き、正直僕は答えるのもうんざりだった。何か違うね。全然違うね。

「できませーん」
 できません、できません、できませーん!

「ああ、そうですか……」
 長い机の向こうから冷たい目を向けていた。
 監督はまだ僕の力をわかっていないな。
(僕の本当の力はまだここではみせられないんだよ)
「じゃあ、次の人」




「ほんのワンシーンに出してくださいな」飛び込む猫の気まぐれ志願







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うさぎと亀のプロローグ

2024-10-22 17:55:00 | リトル・メルヘン
 抜かれて行く刹那、亀は修行に費やした日々のことを思い出していた。
 石の上で目を閉じて精神性を高めた。登山家のグループの後を歩いて、粘り強さを鍛えた。氷の上のダンサーについて芸術性を学んだ。路上プロレスに飛び入って、根性を身につけた。すべては見違えるような亀になるために。
 それでも本番のレースでは、思惑通りにはいかないものだ。犬に抜かれた時には、地力の違いを思い知った。長年の習慣が違う。リスに抜かれた時には、フィジカルの違いを思い知った。バネが違う。馬に抜かれた時には、次元の違いを思い知った。生まれも育ちも違う。

(とても追いつけない)

 自分だけではない。
「私が伸びた分、他も伸びているのだ」
 大会のレベルの高さを悟りながら駆けていると、ちょうど亀の横に並んだ選手がいた。眠っているはずのうさぎだった。
 何としても最下位にだけはなりたくない。
 そうした思いが瞬間的にこみ上げてきて、気がつくと亀はうさぎをぶん殴っていた。

「何をするんだ!」
 うさぎは抗議の声を上げながら倒れ込んだ。

「お前は寝る担当だろ!」
 そう決めつけたのは、亀の勝利に対する執念だろうか。

(夢を裏切る奴は許さないぞ)

 うさぎと亀の戦いはまだ始まったばかりだ。







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ドッグ・ターン

2024-10-15 17:59:00 | 夢の語り手
 絵に描いた餅が現実味を帯びないでいた。タッチを変えて描き続ける。餅が駄目なら対象も変えてみる。うどんを手打ち風に描いてみるが、硬すぎて食べられない。和から中華へと筆を伸ばす。基本的なチャーハンを黄金色に描いてみたが、どこまで行ってもパラパラにはならない。つまりは、食えたもんじゃない。
「絵じゃ食べれないのがわかったでしょ」
 いや、まだまだだ。
「これは僕の腕の問題だ」
 やることが間違っているとは思わなかった。みかん、バームクーヘン、焼きそば、エビフライ、ビーフカレー、マカロン、ペペロンチーノ、親子丼、シュークリーム……。その内に口に入る素材が現れると見込んでいたが、どうも上手くいかない。何が悪いというのやら。
「まだわからんか、あんたは」
 すっかり分からず屋扱いだ。
(はーーー)
 大人のため息を聞かされると切なくなる。

「どうして会えないんですか?」
 地底人をたずねてきた男が訴えてきた。
「約束はされていましたか」
 怒りに対する時には、頭ごなしに否定してはならない。まずは気持ちに寄り添うことが肝要。しかし、男はなかなか理性的にはなれない。え、え、え、いないんですか。なぜ? はい、なぜ、答えて、すぐに、理由を、説明、して。どこに書いてあるの。いないって書いてないよ。税金のこと、週末料金のこと、キャンセル料のこと、色々書いてあるけど、おかしいね、あんたのところは、地底人の記述が1つもないなんて!

 あふれるインプット、楽しいプライムの中に、埋没していく自身。大臣が替わり、俳優が捕まって、アイドルが逃げ出して、企業が合わさって、会長が捕まって、大臣が捕まって、日常がむしり取られて行くばかりなのに。自分探しのジャポネーゼ。
 日常も味方も捨て去って運ぶは自分ドリブラー。誘惑も欲望も断ち切って、遠くへ行こう。炎を抜け、輪を潜り、冬を眠り、泥を蹴り、ただ一度の歓声のため、ただ一度の眩い光のために。見せ場を待ちわびた猫がブランコの上から見ていた。どこに着くのか知らねーぜ。
 自分の知らない町。自分を知らない町。忘れていた自分を取り戻し、新しい自分を見つけ出す町。時はすぎた。何度も、何度も、大臣が替わったほどに。

 すっかり人間に嫌気がさすと僕は犬に変わっていた。
「いつまでもつなぐな」
 先頭に立って人間を引っ張り出した。加速をつけて離れて行く。どこまでも行くよ。計り知れぬのびしろと高揚の中に僕はいた。
 長い信号、校舎の壁、異星人の落書き、浮き上がる水たまり、錆びた歩道橋、シャッター通り、ガラスの向こうのダンサー、自転車のサーカス、頑固な座り込み、庭師の鋏、眠るガチャポン、名前のない花屋、駆け抜ける、すれ違う、行き過ぎる。街の喧騒とグラデーション。
 鼻先をくすぐる匂いが決意させる。
「帰る!」
 心変わりに自らときめいた。飛び出した瞬間のことを振り返る。あの時、行き先は架空の「遠く」「ここではない」「どこか」だった。だけど、ターンした瞬間は違った。
「僕はホームを見つけたかったのかな」
 探していた場所は、自分のいた場所だ。(変だな。ホームがゴールになるなんて)もう、あの頃のように息は切れていない。
 ねえ、早く帰ろうよ。
 お腹空いた。






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ガジガジ流

2024-10-12 21:21:00 | 桃太郎諸説
 昔々、あるところに山に芝刈りにばかり行くおじいさんと、健やかなおばあさんがいました。おじいさんは、毎日のように山に芝刈りに行くと、これでもかこれでもかと芝を刈ってばかりでした。これでもかこれでもかと刈り続けられては、普通ならば音を上げるようなところですが、芝はそれでも負けずに逞しく生えてくるのでした。「ほどほどにね」とおばあさんが言うとおじいさんは少し機嫌を悪くしました。「そんなこと言わんでもええ」ぼそぼそとおじいさんは言いました。「駄目とは言ってません。ほどほどに」おじいさんは黙って山に芝刈りに行きました。おばあさんは、清く正しく川に洗濯に行きました。
 おばあさんは、川に着くと洗濯物を広げました。風呂敷いっぱいの汚れ物です。汚れはどれもこれも頑固なものばかりで、まるで凝り固まった大臣のようでした。おばあさんは洗濯板に向かってゴシゴシと汚れを退治しました。ゴシゴシゴシゴシとまるで手を緩めることができません。ゴシゴシまだまだこりゃテコでも勝てんわ。

どんぶらこ♪
どんぶらこ♪

 その時、上流から何やら桃めいたものが流れてきましたが、洗濯に夢中なおばあさんは、勿論それに気がつきませんでした。

ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪

 気づいてもらわねばなきも同然。桃めいたものはそう思っておばあさんの気を引こうとしました。

どんぶらこ♪
どんぶらだぼーん♪
どんぶらこぼちゃーん♪

どんぶらこ♪
どんじゃらろーん♪
どんぶらじゃーん♪
こっちだどんぶら♪
どんぶらこぼちゃーん♪

どんぶらげ♪
どんぶらざんげ♪
こっちだばあちゃーん♪
どんぶらどろーん♪
どんぶらどんぶらどんぶら♪
どんどんどんどんどんぶーらぶら♪
どんどんどんどんどんぶらーぶらら♪
どんぶぶぶぶぶどんぶらこぼちゃーん♪

 そうしてリズムを変えながら、桃めいたものはおばあさんの注意を引きつけようとしたのでした。

ゴシゴシ♪
ゴジゴジ♪
ゴシゴシ♪
ガジガジ♪

 しかし、おばあさんは今はそれどころではありません。頑固な汚れ物にガジガジと食いついていました。何があっても決して離れない。強い決意が洗濯板の上に満ちていたのでした。おばあさんこそがガジガジ流の使い手だったのです。






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友情出場

2024-10-09 22:44:00 | ナノノベル
「あとは頼むぜ!」

「任せとけ!」

 ピッチを去るボランチから俺はキャプテンマークを引き継ぐ。
 ん? 留まらないぞ。
 ちゃんと留まらない。

「ホッチキス持ってきて!」

「駄目だ! 手でどうにかしろ!」

 四苦八苦しながら、俺はどうにかキャプテンとなってピッチに駆け出して行く。リードしている試合をそのままちゃんと終わらせること。それが遅れて入ってきた俺の役目だ。若くはない。だけど、数え切れないほどの経験がある。苦い経験から学習を重ね、俺はより確実性のあるプレーを磨き込んできたのだ。

「痛い! いたたたたたー! あいつにやられた。10番だ! キラーパスに刺された!」

 俺はピッチ中央で倒れ込む。
 笛が鳴ってプレーが止まり、審判が駆けつける。

「VARを! しぬー!しぬー! ちゃんと見てくれ!
 故意だ! 絶対故意だって!」

 判定はグレー。カードは出なかったが時間はかなり削れた。ナイスプレー!

「痛い! まだちょっと痛むぞ! 大丈夫。自分で歩ける。
 そうだキーパー。やっぱりキャプテンマークはキーパーに!
 おいキーパー! 俺の中ではやっぱりお前しかないぜ!」

 俺はゆっくりとゴールマウスへ向いて歩いて行く。とてもゆっくりだ。まだ完全じゃないからね。一歩一歩。俺の確実にすぎる歩みによってアディショナルタイムは吸い取られていく。そして、ついに主審がお手上げのジェスチャーをみせ、同時に終了の笛が鳴り響いた。
 俺がピッチ上に倒れ込むところが、ラストシーンだ。

 fin.

 観客はまだ席を立たず、オーロラビジョンに流れるエンドロールをみつめている。俺の名前は、監督の1つ前だ。







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対局室と最新家電

2024-10-05 21:54:00 | この後も名人戦
「はっ、何か対局室に飛んできました。あれはスパイ衛星か何かでしょうか?」

「何をおっしゃいますやら。そもそも何を盗めますか?」

「そうでしょうか」

「あれはですね、最新ロボット掃除機のドルンバくんです。彼は空気中の微細な塵を除去しつつ、畳の上もきれいにしてくれますから」

「ほーっ、これはなかなか愛嬌があって、部屋の中も和みますね」

「かわいくてその上で頼りにもなる優れものですね」

「畳の上はきれいな方がいいですものね」

「そういうわけです」

「ドルンバくん、ごくろうさまです。この後も、引き続き名人戦生中継をお楽しみください」








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ダブル・タイトル

2024-10-04 17:10:00 | ナノノベル
 長年書きあぐねていた小説が、その気になって頑張ってみるとあっという間に完成した。

バンザーイ!
今までのあぐねは何だったんだ?

 アイデア、ストーリー、キャラクター、オリジナリティー……。どれも今までで一番いいと言えた。
 問題はただ1つ、小説のタイトルだけだった。
 タイトルを疎かにすることはできない。
 タイトルは小説の顔だ。あらゆる読者のイメージを最初に刺激し、思わず手が伸びてしまう。荷物で塞がった手も、ポケットに奥深く逃げ込んだ強情な手も、引き出してしまう。そんな強い顔が必要なのだ。

A案「    」
B案「    」
 見つめれば見つめるほどにわからなくなる。
 どちらもいい!
 どちらも同じように好きで、同じほどこの小説に相応しい。
 そんな2つの顔から私は目が放せなかった。

 寿司もいい、焼き肉もいい。迷っている内にチャーハンになる。そのようなことはよくある。延々と迷っている時、突然後から現れたものは清々しくて魅力的だ。お姫様を持ち去ってハッピーエンドをつかむ英雄たちだって……。

「よーし。チャーハンだ!」
 その時、私は完全に取り乱していたのだ。
 A案B案を捨てチャーハンにするか。
 そんなことを本気で考えていたなんてね。
 一晩ぐっすり眠ると目が覚めた。私はそこまで馬鹿ではなかった。
 馬鹿でも薄情でもないから、まだA案B案どちらも捨てられなかった。
 仕方がない……。

 私は同時に別々のタイトルで同じ本を出版した。
 売れ行きは鴉が水をあびるような感じだ。
 どちらも同じようなペースで売れている。
「上手くいけばどちらも買ってもらえるかも」
 ふふふ……。







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