眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

スローウォーカー(&かきつばた折句)

2024-11-28 20:11:00 | リトル・メルヘン
 昔々、あるところにゆっくりと歩くおじいさんがいました。おじいさんがゆっくりと道を歩いているとその隣からプールへ向かう小学生が追い抜いて行きました。

「プールか」

 わしにもあれくらい小さかった頃があったものだ。しばし昔を振り返りながら、おじいさんはその歩みを止めることはありませんでした。おじいさんがゆっくりと道を歩いていると、後ろから来たレースへ向かう亀が追い抜いて行きました。競るものがいることは素晴らしいことだ。それは醜い争いとは違うのだからね。

「がんばれ!」

 おじいさんは亀の背中にそっとエールを贈りました。しばらくすると後から富山の薬問屋の一行がやってきて、おじいさんを追い抜いて行きました。

「お気をつけて」

 どれだけ追い抜かれようとも、おじいさんは少しも取り乱すことはありませんでした。それからまたおじいさんはゆっくりゆっくりと道を歩いて行きました。すると後ろから木漏れ日へ向かうクワガタムシがやってきて、おじいさんをすごい勢いで追い抜いていきました。その時、おじいさんはそれに気がつきませんでした。(我が道を行く)まさにそれはおじいさんにこそ相応しい言葉のようでした。

「おい! 歩道を歩け!」

 時々、どこからともなく心ない言葉が飛んでくることがありました。そんな時にも、おじいさんはペースを守ったまま歌いました。(おじいさんの大好きなかきつばたの折句です)


カナブンや
着の身着のまま
罪な人
歯ぎしりすれば
太鼓乱れる

火星より
棋譜を届ける
つれづれと
はさみ将棋は
たけのこの里

枯れ草や
きな粉をつけて
突っ張れば
歯がゆさはもう
タコのぶつ切り

感傷の
気球に乗って
ついてくる
ハルという名を
たずねる君が

かさかさと
狐の夜に
躓けば
バターにとけて
タワーマンション

釜飯や
きのこの山を
つつきあう
ははははははは
楽しいですな

かまいたち
棋風を読んで
積み上げた
箱に紛れた
大将の猫

からあげや
金賞銀賞
艶やかに
蔓延る街に
煙草の煙

陰のある
今日を認めて
強くなる
履き違えても
旅の一日

革命の
汽車を見送り
つかれたの
果てなき君の
タイプライター

かさぶたと
昨日を呑んだ
月明かり
計り知れない
短冊をさす


「すみませんけど……。こちらはランナーのみなさんが走りますので、部外者は外へお願いします」

 委員会を名乗る男たちに取り囲まれて、危険な目に遭うこともありました。

「ここは女性専用となっております。速やかに退出願います」

 不条理なカテゴライズを押しつけようとする勢力につまみ出されそうになることも、しばしばありました。

「おい! ちゃんと歩道を歩けよ!」

 また、どこからともなく心ない言葉が飛んできました。けれども、おじいさんはそうしたいかなる雑音に耳を傾けることもなく、ひたすら自分のペースでゆっくりと歩いて行きました。
 様々な困難や妨害を乗り越えて、おじいさんはついに世界の果てまでたどり着きました。そこはとても水のきれいな場所でした。

「さーちゃん、みえるかい?」

 おじいさんの隣にはいつでも彼女が並んで立って(歩いて)いました。それを知るのはおじいさんだけ。おじいさんだけの秘密でした。








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空席誕生

2024-11-21 19:25:00 | コーヒー・タイム
いい席がない

いつもの席

とっておきの席

あそこも埋まってる

よそ行くか


あきらめて

歩き出した帰り道に

空席が!


さっきは埋まっていたはずなのに

ありがたい

僕の一番好きな席が空いた!


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シャッフル・バス

2024-11-02 16:53:00 | ナノノベル
 アウェー・ゲームは旅から始まる。バスに揺られながら俺たちは決戦に向けてそれぞれに気持ちを高くコントロールしていく。音楽、映画、ゲーム(あいつゲームの中でもサッカーしてるよ)、読書。座席での過ごし方にはそれぞれの個性が現れる。目を閉じて静かに夢見るミッドフィルダーもいる。何をしようとも長時間同じ姿勢を続けることはコンディションに悪影響を与える。気分転換を兼ねてバスは途中休憩に入る。

 道の駅での楽しみはつまみ食いだ。お菓子、ソフトクリーム、たこ焼き、団子、お煎餅……。様々な誘惑が手招いている。中でも中華そば! これにはかなわない。ご当地の味が俺の舌を魅了する。それにはゲン担ぎの意味もあった。麺のような腰の強いフィジカルを保てますように。スープのような濃密な選手生活を送れますように。ふぁー、やっぱり旨かねー! 小腹を満たすと幸せなリフレッシュが完了する。憂いなし! 俺たちはゆっくりと駐車場を歩いて選手バスへと向かった。バスには既に別の人間が乗り込み満席だった。戻るバスを間違えたわけではなかった。


「監督、これはいったいどういうわけです?」
 誰なんだこいつらは。どこの子や?

「すまん。新陳代謝だ」
(これしかなかったんだ)

 監督の目の奥に哀しみが滲んで見えた。憐れみなどではない。勝利を希求する者が未来を見つめている目だった。だから俺は何も文句を言えなかった。
 結論は既に出ていた。俺たちの戻る場所はどこにもなかった。バスは、一瞬の停止で世代交代を終えたようだ。

「なんて手際だ!」

 窓の向こうに見えるギラギラした瞳。確かに、あの光こそ今の俺たちが忘れてしまったものかもしれないな。一息で扉は閉まり、新旧の世界を隔てた。敵地に向けてバスは走り出す。俺たちはまだそれを応援するという立場にはなれなかった。


「じゃあ、もう一軒まわるか!」
「おーっ!」
 ただ旨いものを追い求めて俺たちの旅は続く。








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