眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ベッド・イン  

2013-06-05 09:10:42 | 夢追い
「ちゃんと見たのか?」
 チーフが言って、みんなが床の隅々を見渡している。
「見ました。見たけど、掃除はまだです」
「見ただけか!」
 みんなが仕事を始める中で、早速掃除に取り掛かった。ちょっと足元を失礼します。他人の邪魔になろうが、こちらはこちらでこれが仕事なのだから遠慮はいらない。必要とあらば一時的に椅子ごと移動してもらい、作業の手を止めてもらった。それに不満そうな顔をする人もいたが、反対にうれしそうに一休みする人、一緒になってゴミを拾ってくれる人までいた。埃が舞うので窓を開けた。空気の入れ替えも大切だ。風強し。重しをしなければ、机の上の大事な書類や秘密の文書が飛ばされてしまう。風入ります。各自注意してください。
 2階まで上がると更に風は強く、観光客らしき人たちの悲鳴のようなものが聞こえてきた。端っこまで行くと飛ばされて落ちてしまうという。僕はほうきを支えにしてやり切るつもりだったが、すぐにその悲鳴の意味を感じ取って、姿勢を低くした。とても真っ直ぐ立っていることも歩くこともできないのだった。端っこに行かなくても、うかうかしていると流されて端っこまで飛ばされて、落ちてしまう。近くにある凹みを見つけてその中に逃れるとしばらくの間、風が弱まるのを待った。

「上には行かない方がいいよ」
 下の人にも教えてあげた。チーフの傍は軽く済ませて、更に奥の部屋を掃除した。見えにくいところにも埃が溜まっており、それらを拭き取るとすぐに雑巾は真っ黒になったが、見えにくいだけその成果が人に伝わらないことが寂しかった。
 銃声がした。暴発ではない。怒号や悲鳴に続いて、更にまた銃声。一箇所ではなく、方々でそれは鳴っている。対立はこのところ穏やかになっていたようだが、何かのきっかけによってそれが最熱し、爆発したのだ。「逃げろ」という声も、最後まで言い切ることができない。従業員はみんな消されてしまった。裏口から風の危険を冒して再び2階へと上がり、昔使っていた仮眠室に逃げ込んだ。遠くで銃声が聞こえる。

 ベッドの中は空洞になっていてその中に身を隠すことができた。万一のために戦闘用の傘を脇に抱えて、身を隠すことに決めた。布を敷いた上に身を置いて、板を被せると板が少し浮いてしまう。布を敷かなければ下が固くて、長時間身を置くことが困難だ。布を敷いた上に身を置き、上から毛布を被ってみた。居心地は悪くなかったが、上から見た時に人間の形が浮いていて、いかにも人が隠れているように見えることが心配だった。まだ迷っている内に、ガチョウが鳴き出した。こいつも敵に寝返ったのだ。傘の先端を見せて威嚇すると一層激しく鳴き始める。敵に知らせようとしているのだった。傘を広げ大きな鳥の類のように見せて宥めようとするが、まるで効果はなく、口先で窓を叩き始めた。
「やめろ!」
 硝子が割れて、強い風が入り込んできた。

コメント
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