眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

豆腐蛙の跳躍

2013-08-27 21:15:39 | 夢追い
 外に人のいる気配を感じながら新しい関心が芽生えるまでチャンネルを変えていると突然襖が開いた。
「何をしている?」
 おばあさんは、怒ったような声で言った。
「休んでいるんだ」
 答えが気に入らないようでおばあさんは散々文句を言ってから、忘れ物を置いて出て行った。昼間からなんだ!いい若い者がなんだ!テレビなんか見てなんだ!という調子でおばあさんは一方的に責めて、こちらからの意見を拒絶していた。忘れ物のこん棒を持って追いかけると、おばあさんはまだ入り口の近くを歩いていた。
コツン!
 手渡すだけでは物足りなく思え、おばあんさんの頭をコツンとした。
「こいつめ!」
 おばあさんは激しい怒りを体全体で表し、このままで済むとは思うなよと捨て台詞を吐いて、こん棒を握り締めて帰っていった。後悔の念が押し寄せてくる。人の恨みを買うような真似だけはすまいと心がけていたのに、ついつい憎らしくなって……。ノックもしないおばあさんの方にだって少しの非はあるのだ。けれども、一旦恨みを買ってしまった以上、どんな罠や仕返しを仕掛けられるかもしれないし、凶悪な援軍を引き連れて戻ってくるかも知れず、この場に留まるわけにはもういかなかった。
 都会を離れ観光地に逃げ延びると、薄暗いファッション館の中では外国人観光客たちが既に店の中にあるクールで未来的な洋服を購入してそれぞれ自在に着こなして歩いている。上の階に行くには、ロープを掴んで腕の力だけで行かなければならなかった。滑り止めの粉を両手にまぶして一気に上る。
「いらっしゃいませ」
 フロアにたどり着くとすぐに占いの館になっていて、青いドレスを着た蝶の妖精のような占い師が笑顔で出迎えてくれた。その奥は本屋になっていたが、更に奥に進むと古いビデオテープや懐かしいカセットテープがワゴンの中に並んでいた。何となく目を落としながら、家の中の地図を開いて再生できる機器があるかを探していた。
「何かお探しでしたら……」
「見世物に来ただけです」
 咄嗟に出た言葉に、自分自身が驚かされた。

「もう電池が切れる」
「じゃあ、かけ直してよ」
 彼女はそう言って電話は切れた。突然、彼女の電話番号がわからなくなった。記憶も飛んでしまったし、探し方も思い出せないのだった。
 歯磨き粉じゃないと言って、兄が騒ぎ出した。そう言われてみれば、僕の口の中もいつもとは違う、得体の知れないフルーツのような匂いが残っているし、宝石が詰まったように口の中が硬くなっているような気がしてきた。騒いでいる内に、近所の田村さんから電話がかかってきて、お宅の母がずっと朝から泣いているから、いい加減にそろそろ迎えに来たらと言う。父の部屋を訪ねると父は絨毯の上に図鑑を広げ、虫眼鏡を手に顔をくっつけて覗き込んでいる。研究の途中で話しかけても、少々のことでは届かないと予想された。

「今から会おうよ」
 電話がつながらないので、直接彼女に話しかけることにした。
「マクドナルドで朝ごはんでも食べようよ。久しぶりにね」
 再会した彼女と並木道を歩いていると道端で豆腐の形をした蛙を見つけた。豆腐蛙だ。
「かわいいね」
「うまそう!」
「食べるつもり?」
 手の平に載せた拍子におしっこをかけられたが、悪気のない顔つきを見るとかわいさが増してきた。
「つれて帰ろうか?」
 犬と仲良く暮らしていけるだろうか……。
 背中に豆腐蛙を乗せて街中を散歩する風景、珍しい獲物として庭の隅から隅まで追い回される豆腐蛙。反する風景が同時に浮かんで、決断を鈍らせていると、ついに豆腐蛙は最大跳躍を見せて、枝の上に飛び移ってしまった。

 木の下にライオンの親子は身を寄せて暮らしていて、母が食物を持ち帰ってくると決まって先に子供に与え、母は木から1メートル離れたところで子供が食べ終わるの待っているのだった。
 もしも木そのものから食物が発生したら? 木と食物が一体化した時、母ライオンはどう動くのか? というのが博士の考えたテーマだった。博士は実験のために人工の木を作り、母が何もしなくても食物が出てくる仕掛けを作った。
 先に気がついたのは母ライオンだった。母ライオンは食物の存在に気づくとためらうことなくそれを食べ始め、その内に木と一体化してしまった。母ライオンは木となり食物となり、その間、子ライオンが入り込む余地はまったくないのだった。しかし、ある程度まで食べたところで、突然母ライオンは食べることをやめ、木との契約を解消するといつものように木から1メートルの距離を取るのだった。その時、母は少し照れたような顔をする。その小さな表情の変化を、博士は重視している。恐らくそれは、次のテーマにつながる何かだと思われた。
「なるほど。そうなるか」
 母はいつものように、少し離れた場所から、子供が食物を食べ始めるのを待っていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする