「これは大変なことになりました。雨漏りでしょうか。天井から何やら落ちてきてますね。このままでは対局の続行も危ぶまれるのではないでしょうか? 先生どうでしょう」
「そんなもんお前、なんで部屋の中で雨やねん。プレハブ小屋でやっとんのか。ちゃうやろ。立派なとこやのに考えられへんで」
「今、記録係の少年がバケツを持ってきて、駒台の横に置きましたね。もっとバケツは必要なのではないでしょうか。あちらこちらで落ちてきてますね。タブレットなどは大丈夫でしょうか」
「だいたい電子機器いうのはあかんやろ、お前。普通に考えたらどないやねん。そやろお前。考えられへんで。どないなっとんねん向こうは」
「記録的な短期間での雨ということで、対局室も緊急事態となっております。先生こんな時ですが、形勢の方はいかがでしょうか?」
「互角やな、ぱっと見た感じ。わしら読みとかあらへんで。ぱっと見たとこで出たとこ出たとこ勝負やで。そんでお前うまいこといったらもうけもんやないかのう。いかんかったら運がわるかったゆうだけの話や。そやけど雨やなんかで水を差されるようなそんな将棋とちゃうやろこいつら。ずっとお前こいつらそれで飯食ってきとんねんから」
「雨にも負けないということですね」
「バケツなんかなんぼでもあるやろ。もう雨でも上がるんちゃうんか」
「止まない雨はないということですね」
「どこでもそうやで、定跡以前に誰かてお前知ってるわ」
「視界良好ということですね。この後も、名人戦生中継をお楽しみください」