傷ついた鶴を助けたことなどすっかり忘れていたが、美しい女が訪ねてきたので、私は快く家に入れた。
「あの時の恩を返しにきました」
鶴は女の体で言った。
贈り物をしたいので仕事場を1つ貸してほしいという。そして、自分が仕事をしている間は絶対に扉を開けてはならないと言った。
「約束してください」
「わかりました」
そして、鶴は女の体で食事をしたり雑談をしたりする以外の時は、仕事場にこもって作業をした。そんな日々がしばらく続き、私はもやもやした気分だった。
ある日、私は誘惑に負けて扉を開け、そして見てしまった。鶴は自らの羽根を抜きながら着物を編んでいたのである。その表情はどこか恍惚としたものに見えた。約束を破ったことがばれたらえらいことになる。私は鶴に気づかれないように、そっと扉を閉めた。
後日、女は完成した着物を広げ私に見せてくれた。私はそれを初めて見たように大げさに驚いてみせた。
「ありがとう」
「これで私の仕事は終わりました」
そう言って鶴は女の体で帰って行った。
せっかくの着物だったが、私はそれをどこか気持ち悪く思い、オークションに出品した。まずは2000円から。
10分と経たない内に、値段は1万円につり上がった。3万、10万、30万、40万……。どこまでも上がっていく。私は気分が悪くなって、出品を取り下げた。
夏祭りの日、私は初めて着物に袖を通した。ちょうどよかった。肌触りがよく、どこかよい香りがした。
私は誇らしかった。
今度もし鶴に会ったら、心から礼を言おう。
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