昔々から繰り返し伝えるおばあさんがいました。
あるところに
ある人とあの人と
喜び出て行く犬
喜び帰ってくる犬
絶対に開けないで
はいはい
繰り返しかわされる約束
繰り返し破られる約束
秘密の宝箱
行っては帰る
行っては戻る
めでたしめでたし
おばあさんは町から町へと昔話を繰り返しながら渡り歩きました。威勢のいい町もあれば、廃れたような町もありました。落ち着いた町もあれば、見かけ倒しの町もありました。町長のいない町もあれば、町長しかいないような町もありました。あるところでは聞き手がすべて犬でした。犬たちは起承転結に渡り辛抱強くおばあさんの話に耳を傾け、めでたしめでたしとなるとご褒美を受け取って帰って行きました。
「もう一度聞かせてよ」
あるところでは子供たちに囲まれて人気者となり、おばあさんは何度でも同じ話を求められました。
「おしまい」
人気を得た時が去る時と心得ていたおばあさんは、未練がましく留まったり、名残を惜しむようにくつろいだりせずに、早馬のように町を去って行くのでした。暖かな町もあれば、吸血鬼だらけの町もありました。景観のよい町もあれば、極めて見苦しいような町もありました。若者であふれる町もあれば、鴉しかいないような町もありました。あるところでは聞き手がすべて猫でした。猫たちは要所要所で相槌を打ち、あるいは茶々を入れながらも、熱心に耳を傾け、めでたしめでたしとなるとご褒美を受け取って帰って行きました。
どこまで行ってもおばあさんの話が終わることはありませんでした。語り尽くすには、町が多すぎるのでした。やがて腰は折れ曲がり、もう声もかれてしまいそうでした。それでもおばあさんは町から町へ、町という町へ、未だ見ぬ町へ向けて歩み進みます。
「伝えることしかできない」
考えてみても、他にすることが見当たりません。
おばあさんは話すことが大好きでした。
好きなら繰り返すだけのことです。
めでたしめでたし