ここのところ電力代が高騰して、悲鳴が上がってる。ネット界隈をはじめ、原発が稼働していれば、こんなこともないはずだ、とか言われている。本当にそうか? 実は、私、ビジネス研修でこれを検証したことがある。
数年前に、ある研修会社さんに頼まれて、エネルギー業界を専門分野とする中小企業診断士である私に、「エネルギー基礎研修」を企画してくれ、と言われた。エネルギー業界以外の方が、エネルギー業界に参入する際の基礎を知るための研修である。メニューは以下の通りだ。
第Ⅴ部 電力事業のCVP分析というのを入れてある。CVP分析とは、C:コスト、V:売上、P:利益から 損益分岐点を算出し、その企業の財務体質を観ようというものだ。簡単に分析の目的を話し、演習に入る。対象企業はある大手電力会社、2010年と2015年の損益計算書を見せ、費用と、売上、利益を拾ってもらう。
2010年は原発が順調に稼働していた頃、2011年に東日本大震災が起き、日本の原発は一斉に止まった。止まったままの時期が2015年である。そして一部の電力会社は、点検検査後、再び稼働し始めている。
上場企業の損益計算書は公開されていて、誰でも入手可能だ。さらにコストのうち、燃料費のみを変動費に、それ以外を固定費にする。そしてこれらを簡単な計算式に入れると、損益分岐点が計算できる。2010年と2015年の計算結果が下図だ。
2010年から2015年にかけて、売上が2.47→2.87(単位:兆円)とアップしている。ただし利益は0.22→0.21と逆に少しダウンだ。そして、損益分岐点は、2010年は2.20、2015年は2.59。かなり高くなっている。損益分岐点とは黒字・赤字の境界のこと。これが高いというのは、高コスト体質を表す。
さらに内訳をよくみると、変動費が0.39→0.71へと大きくアップしている。変動費は燃料費を取っている、つまり原発の燃料費が入っている頃から、全部止まってLNGがほとんどの頃への変化を示す。原発の燃料代が少なく,石炭・LNGが高いことがすぐ分かる。原発の原料はウラン、再利用もできるため、原料費が安い、一方のLNG、LNGとは液化天然ガスのこと、これは原油料金に連動する。
研修を受講された方も、結果を聴いて、オウ、という表情をしていたのを思い出す。研修では、さらに設問を続けている。この後、原発が再稼働して、財務体質も元に戻った。さあ、この電力会社は、次に何をしたでしょうか?だ。答えは、電力料金の値下げ。これで消費者に還元したのである。これらは、ある年のエネルギー白書に載ってもいる。
この研修は3年ほど続けた。1年に1回だけのため、資料を作る手間の割に、収入が少ない。そのため、私からお願いして、辞めさせてもらった。当時と今は経済環境が異なるため、同じ結果にはならないはずだが、それでも「原発が稼働していれば、だいぶ違う」ことがわかると思います。
エネルギ―業界を専門にした中小企業診断士の研修の仕事でした。