札幌に「くすみ書房」という本屋さんがある。
私も北海道で暮らしてみるまでは知らなかったが、いわゆる町の本屋さんだ。しかし、ただの本屋さんではない。「主張する本屋」「ココロザシのある本屋」なのだ。
本屋の命は棚。どんな本を、どんな風に並べているか。そこに、店主の意思というか、志が見える本屋はいい本屋さんだ。くすみ書房はまさにそれ。
まず、独自の「ブック・フェア」をばんばん実施する。思わず「ワオ!」と叫びそうになるのが、「なぜだ!?売れない文庫フェア」。
<地味だけと味のある「ちくま文庫」800点>とか、<文庫の王様「新潮文庫」の売れ行き順位1500位から最下位までの700点>とか、嬉し涙モノの企画が迎えてくれる。
さらに、くすみ書房を有名にしたロングラン企画が、「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」だ。もう、まんまタイトル通りで、「中学生にオススメの本」を、どどーんと並べている。
「元気になれる本」としては、マーク・トウェイン『トク・ソーヤの冒険』をはじめ、重松清『流星ワゴン』、色川武大『うらおもて人生録』、橋本治『青空人生相談所』などなど。
「新しい自分に出会える本」には、吉野源三郎の名著『君たちはどう生きるか』はもちろん、小澤征爾『ボクの音楽武者修行』、水木しげる『ねぼけ人生』、みうらじゅん『正しい保健体育』などが入っている。
こんな本が500冊も並ぶ棚の前に、中学生が突っ立って、呆然としている光景を思い浮かべるだけで、えらく楽しい。
いや、それだけじゃない。この「中学生にオススメの本」は、我々オトナにとっても必読の本ばかりなのだ。
500冊は更新され続け、このフェアも、今では北海道内だけでなく、静岡県や愛知県の本屋さんでも実施されている。
こうして、くすみ書房は、本屋さんという既成概念を超えて、進化していく。
3年前には、「ソクラテスのカフェ」という喫茶店を、本屋の地下にオープンした。ここでは、「講演会」も、「朗読会」も、「語学教室」も、「文章講座」も開催される。いわば、町の文化サロンだ。
こんな愉快な本屋さんが存在するのは、一にも二にも、とんでもないことを発想し、実行するトンデモ店主がいるおかげで、それが久住邦晴さんだ。
本屋は人なり!
札幌駅の周辺には、紀伊国屋、旭屋といった大型書店がある。その一方で、こういう元気な町の本屋さんが健闘しているってのが嬉しいじゃないの。
先日、札幌で入手してきたブックレット『中学生はこれを読め!』(北海道新聞社)を開く。例のブック・フェアが本になったものだ。
巻末の<これ読め!500選 2008年版>リストを目で追う。未読の傑作がごろごろしている。あれも読みたい、これも読みたい。そう、本読みのココロは、いつだって中学生なのだ。
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