すごい小説が出てきたものだ。
柳 広司さんの『ジョーカー・ゲーム』(角川グループパブリッシング)。
太平洋戦争開戦前夜、陸軍スパイ養成学校「D機関」の”卒業生”たちが暗躍する物語である。
実在した陸軍中野学校がモデルかと思うが、このD機関を設立し、学生(といっても大人だ)を指導する結城中佐の存在感が強烈だ。戦闘能力はもちろん、スパイとしての優れた頭脳と判断力、冷徹な目の持ち主である。
結城の口癖は、「スパイとは、見えない存在なのだ」。「スパイは疑われた時点で終わりだ」。そして「決して死ぬな。殺すな」。
卒業生たちは、結城から、一見困難と思える命令を受ける。彼らが、敵に覚られることなく、痕跡も残さず、完璧に任務を達成していくプロセスは、実にクールでスリリングだ。
5本の短編が収められているが、いずれもスタイリッシュな仕上がりで、ひとつの長編スパイ小説を読んだような充実感がある。
今年度のベストミステリーに入ってきそうな予感さえする一冊だ。
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