碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

7年目の9月11日に

2008年09月11日 | 本・新聞・雑誌・活字

39年前のニューヨーク。ひとりの日本人カメラマンが、巨大なビルの建設現場を撮影していた。

彼の名は佐藤秀明。着工されていたのはワールド・トレーディング・センタービル(WTC)。そこが出発点だった。

佐藤さんのカメラマンとしての軌跡をまとめたフォトエッセイ『グランド・ゼロ~わが心のワールド・トレーディング・センタービル』(マガジンサポート)が出版されたのは、あのテロ事件の翌年、2002年の9月のことだ。 

ニューヨークに始まり、テキサス州ヒューストンでのアポロ11号取材、そしてカヌーイスト・野田知祐氏と共に3年間の世界旅行。

次に、辺境への憧れからアフガンへ。再びニューヨークに戻ると、完成したWTCを撮影した。滝に落ちての臨死体験や、世界に打電された北極点到達など、豊富なエピソードが並ぶ。しかも、すっきりとした文章は、佐藤さんの写真に似てクリアで静謐だ。

2001年12月、同時多発テロから3ヵ月後のニューヨークに佐藤さんは飛ぶ。廃墟と化したWTC。そこが「グランド・ゼロ」だった。

シャッターを切り、知り合いに当時の話を聞いて回った。この時の写真と、建設のプロセスを撮影したものとを合わせて、「鎮魂 世界貿易センタービル」という写真集を出版した。佐藤さんのカメラマン人生は、奇しくも「ゼロからゼロへの旅」そのものとなったのだ。

グランド・ゼロ―わが心のワールド・トレード・センタービル
佐藤 秀明
マガジンサポート

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<9・11>は、やはり大きかった。オーバーに言えば現代史を変えてしまったのだから。

「9・11以降の政治状況なんて、ナショナル・セキュリティとパブリック・セキュリティとソーシャル・セキュリティが一体化して進行するという彼ら(思想系左翼の人たち)の問題提起そのもの」と言ったのは、哲学者・批評家の東浩紀さん。事件の翌年に行われた大塚英志さんとの対談の中の言葉だ。(『リアルのゆくえ』講談社新書)

あれから7年が過ぎたけれども、「9・11以降」という時代がずっと続いたままのような気がするのだ。

リアルのゆくえ──おたく オタクはどう生きるか (講談社現代新書 1957)
東 浩紀,大塚 英志
講談社

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