昨日、千歳科学技術大学での授業を終えた後、食事処「柳ばし」へ。ここは、単身赴任中の6年間、ほぼ毎晩夕飯を食べていたお店だ。お父さん、お母さん(年齢はそんなに違わないのに、息子さんが2人も在学していたので、そう呼んできた)もお元気で、何より。昨夜は特別メニューの「ほたてフライ定食」。やはり、ここの食事はうまい!
「柳ばし」を出た途端、ふと、かつて住んでいたマンションに向かいそうになった。残念ながら、もうないんだよな。明朝のテレビ出演があるので、千歳のホテルというわけにもいかず、電車で札幌まで。馴染みのビジネスホテルにチェックイン。
部屋に入ってテレビをつけると、NHKBSでやっている映画が『チップス先生さようなら』ではないか。こりゃ、いかん。予定の本読みを後回しにしても、見るしかない。
この映画の公開は1969年だが、当時、わが松本の映画館には封切り作品が半年遅れで入ってきていた。だから、私が見たのは翌年の1970年、高校1年のとき。実に38年ぶりの”再会”だった。
主演は、名優ピーター・オトゥール。『アラビアのロレンス』はもちろん素晴らしいが、この作品のオトゥールも大好きだ。舞台女優からパブリックスクール(英国の私立学校であり、中・高一貫教育で、寄宿舎生活を送る)の教師の妻になるキャサリン(ペトゥラ・クラーク)もよかった。
まったく接点がなさそうな二人が互いに惹かれ合い、結婚。周囲はびっくりするが、本当に仲のいい夫婦となり、気難しいとばかり思われていたチップス先生も、実はとても人間味あふれる人物だということが生徒たちにも伝わっていく。
前庭で、生徒一人一人の名前を読み上げるチップス。呼ばれた生徒は校舎に入っていく。教室も講堂も、伝統あるパブリックスクールらしく重厚な建物だ。
戦争の時代になり、学校もまた、その嵐に巻き込まれる。しかし、チップスは自分の信念に従って教育を続ける。こういう、厳しくて、一徹で、あたたかく、誠実な先生の存在は大きい。
私の高校時代にも、戦時中の軍事訓練の光景を話してくださる数学の先生がいらっしゃった。叔父や叔母なども教わった先生だ。公立高校だが、移動せずに、長く母校の教壇に立っている先生が多く、そうした先生方が、学校の校風や伝統といったものを体現しておられたのだ。
映画のほうは、物語の最後の4分の1くらいが、今、こうして見直しても、やはり辛くて、せつない展開になる。けれど、人間にとって、大切なものを教えてくれている。高校生のときには十分に気がつかなかったこともたくさんある。たとえば、ここで描かれる夫婦愛の深さなどだ。
確か、高校時代の担任で、英語の担当だった鎌倉先生は、ヒルトンが書いたこの原作を、私たちが1年生のとき、英語のリーダーのテキストにしたはずだ。ペンギンブックス版だったと思う。
同時に、副読本というか参考文献として、先生が指定されたのが池田潔さんの『自由と規律』(岩波新書)だった。この本で、イギリスのパブリックスクールの教育がどんなものかを知った。また「自由」というものの厳しさも知った。鎌倉先生の当時の言葉でいえば「自由は春のマントじゃない」ということだ。今、思うと、高校1年生に、ああいう本を読ませて下さった先生に感謝したい。
映画の中でペトゥラ・クラークが歌った「あなたと私」も38年ぶりで聴いた。歌詞を結構覚えていた。いい曲だ。ちょっと胸がつまった。
![]() | チップス先生さようなら (新潮文庫)ヒルトン,菊池 重三郎新潮社このアイテムの詳細を見る |
![]() | 自由と規律―イギリスの学校生活 (岩波新書)池田 潔岩波書店このアイテムの詳細を見る |