今年の“読み初め”に選んだのは、敬愛する梶山季之さんの名作『小説GHQ』。
昭和51(1976)年の初版本だ。
テーマはGHQの占領政策であり、財閥解体というかなりヘビーなものだが、それを堂々のエンターテインメント小説に仕立て上げている。
登場するGHQの面々は実名だし、現実の出来事が活写されているのはもちろん、謎に包まれていたはずの内部もきっちり描かれている。
つまり、当時として可能な限りの取材を行い、その上でフィクションとしての面白さを加味しているわけで、そのあたりが梶山さんの凄さだ。
この小説の重要人物の一人である島田子爵夫人は、実在の鳥尾子爵夫人がモデル。
占領当時、GHQ民政局にいたケーディス大佐との親しい関係が噂になった。
以前、その鳥尾夫人に、ドキュメンタリーの取材でお会いしたことがある。年齢を感じさせない記憶力と艶やかさが印象深い。
この小説を読んでいると、GHQが行った占領政策が、その後、現在にまでつながる太いレールとなっていることを、あらためて感じる。
梶山さんは、この小説の連載が終わっても、単行本化を許さなかった。
書き直そうとしていたからだ。
しかし、その死によって果たせなかった。
巻末には、山口瞳さんによる解説がある。
この本が出版される1年前に亡くなった親友への哀悼の思いに満ちた名文だ。
結びの文章は、「自分の構想の半分も実現し得ないで、不可能とも思われるテーマに組みついて、しかもこれだけ読ませてしまう作家がどこにいるかという思いを新たにしたのである」。
活字が立ち上がってくるような、梶山さんのペンの勢いに刺激を受けた“読み初め”だ。