新宿・紀伊国屋ホールで、ラッパ屋の新作『世界の秘密と田中』を観てきた。
入口に立ち、温厚な笑顔で観客を出迎えていた鈴木聡さん(脚本・演出)にご挨拶。
鈴木さんにお会いするのは、前回の公演『ブラジル』(やはり紀伊国屋ホールだった)以来で、ちょうど1年ぶりになる。
昨年の暮れに、朝日新聞紙上で<「小劇場再興」宣言>と題された鈴木さんのインタビュー記事を読んだ。
ラッパ屋の公演を、年2回(これまでは1~2年に1回)に増やして、「中高年にもアピールしたい」と語っていた。結構なことです。
さて、『世界の秘密と田中』である。
都内のアパートに住む39歳のサラリーマン・田中(福本伸一さん)と、同じアパートの住人や恋人や家族など、彼を取り巻く人々の群像劇。
木村靖司さん、おかやまはじめさん、俵木藤太さん、三鴨絵里子さん、大草理乙子さん、岩橋道子さんなど、いつもの面々も大車輪だ。
特に、40歳、60歳(定年でもある)という、世の中でなんとなく“区切り”と思われている年齢を目前にした人たちが軸となる。
彼らの、「自分の人生、なんでこんななんだろう」「思い描いていた人生と違うような気がするんだけど」「このまま終わっていくのかな」といった焦燥感や苛立ちや諦念が噴出するのだ。
笑ってばかりもいられない話なのだが、そこはラッパ屋というか鈴木さん、笑わせながら深いところを突いてくる。
この芝居、オーバーに言えば、“生きることの意味”“人生の意味”といったものに触れたような気がするのだ。
これは全くの独断だけれど、この作品で、ラッパ屋(そして鈴木さん)は一歩も二歩も進化というか、深化というか、もしくは新たな段階(次元)へと踏み出したのではないか、と思う。
じゃあ、「世界の秘密」とは何か。
まあ、それは観てのお楽しみにしていただいて(笑)。
観終わって、鈴木さんの言う「人間の心理のアヤ」「世間の機微」について考えながら新宿の雑踏へと入っていく時、周囲の風景や歩く人たちが、来る時とはちょっとだけ違って見えた。
(公演は17日まで紀伊国屋ホール。その後、大阪、北九州)