日本広報協会の月刊『広報』、2010年6月号が出た。
「平成22年 全国広報コンクール」の審査結果が掲載されている。
放送業界での大先輩である嶋田親一先生と私で、広報映像部門(テレビ・ビデオ)の審査委員をさせていただいているのだ。
このコンクールは、映像以外に、広報紙、ホームページ、写真、広報企画などの部門があって、各都道府県で最優秀に選ばれた作品群を、私たちは審査している。
今年もまた、気合いの入った審査会だったが、お互いが「これだ!」と挙げた作品の多くは、見事重なっていた(笑)。
役割分担で、総評と入選作の審査評を書かせていただきました。
【総評】
タイトル:
すぐれた広報映像は、すぐれた報道活動でもある
本文:
日々の出来事を伝えるのは報道・ニュース番組だが、そんなジャンル分けに収まり切らない“報道活動”がある。番組のワンコーナーを使っての継続取材や、複数の番組をリンクさせての報道キャンペーンなどだ。
ここ何年かの広報映像を見ていると、広報という枠を超えて、すぐれた報道活動として評価したくなるものが多くなった。たとえば、今回の特選である国東市の作品。限界集落の住民たちが、地域に密着した介護施設の導入を実現させている。その活動は、他の地域にとっても大いに参考になるものだ。
また、介護する人、介護を終えた人、誰もが話し合えるオープンな「場」を紹介している西宮市の作品。介護者にとって何より有難いのは、介護の先輩からの具体的なアドバイスだ。思いを打ち明けることで、どれほど精神的に救われることだろう。広報映像を通じて、こうした取り組みが理解され、浸透していくとすれば、これもまた意義のある報道活動といえそうだ。
さらに、今年もまた、秋田市や日進市などクオリティの高い番組を長く続けている自治体が目についた。それらの内容も広い意味での報道活動になっていると思う。
広報という既成概念に縛られ過ぎないこと。報道からエンターテインメントまでの要素も果敢に取り入れてみること。そんな各地のトライに声援(エール)を送り続けたい。
【審査評】
<特選> 国東市(大分県) 「-介護が限界集落を救う- 小さな山里の大きな挑戦」
過疎化と高齢化のダブルパンチで、集落としての機能を維持するのが困難となった朝来地区に誕生した“ムラの寄り合い場所”。誰かに頼るだけではなく、自分たちで出来ることを探っていく様子を追う制作者の目線があたたかい。限界集落と呼ばれる場所にも、当然だが、人は住み暮らしている。高齢となった住民の「ここで最後まで生きていきたい」という思いに応える一つのヒントが、この自主制作番組に込められている。
<1席> 西宮市(兵庫県) 「まるごと市政 絆 ~みんなで支え合う認知症介護」
「人間が老いていくことを、身を持って母が教えてくれているんだと思えるようになった」という有岡陽子さんの言葉が印象的だ。同じように介護に携わり、同じような思いをしている人たち、つまり共感し合える仲間がいることで、介護に対する見方や考え方が変わっていく。それは登場する介護者の方たちの笑顔が証明している。こうした地域での取り組みが多くの住民に伝わり、様々な形での参加に繋がれば、と強く思う。
<2席> 岐阜市(岐阜県) 「あなたの街から ~岐阜市~ 「市民ジャズ楽団」」
市民によって結成されたジャズ楽団が、ステージに立つまでの半年を密着取材だ。まず、全体のテンポがいい。映像センスも優れている。またジャズに詳しくない視聴者のために、その歴史がコンパクトにまとめられていた。公演へのプロセスだけでなく、個々の参加者への取材も丁寧だ。見ていて共感を覚え、もっと演奏を聴きたくなった。何より、一つの“人間ドラマ”になっている点を評価したい。
<3席> 米原市(滋賀県) 「ふるさとの音 ~春照八幡神社太鼓踊り附奴振り~」
5年に1度行われる、八幡神社の太鼓踊り。祭りの準備から本番までを丹念に追っている。内容は、意図的に記録的であり網羅的だ。しかし、そこにこそ、この作品の意味がある。次にこの祭りが開催されるのは5年後。そこでの“主役”は次の世代だ。伝統の祭りの全貌を可能な限り正確に記録(ドキュメント)したこの作品は、彼らのための貴重なテキストとなる。これもまた広報映像の大切な役割の一つだ。
<入選> 厚木市(神奈川県) 「夢を乗せて走れ!厚木育ちのサラブレット」
たとえ地元のことであっても、地域住民さえ知らないトピックスがある。首都圏の大きな都市である厚木市に、サラブレッドの育成牧場が存在すること自体が驚きだ。しかも、若い牧場主の挑戦、父と子の対立、育てた馬の新人戦と、まるでドラマのような展開があり、映像作品としても見応えがある。地域の知られざる活動、取り組みにスポットが当たることで、また新たな広がりが生まれそうだ。
<入選> 七尾市(石川県) 「最高の舞台を一緒に ~マクベスの舞台裏から~」
地元で行われた、無名塾「マクベス」公演の舞台裏である。この公演の見どころは、施設の特色を生かした演劇設計と市民参加にある。エキストラはもちろん、地元の人たちが色々な形で芝居作りに協力している姿が印象的だ。参加者の表情や話からも、現場の雰囲気が伝わってくる。取材も編集も丁寧に行われており、ナレーションの文章がやや定型なことを除けば、“メイキング映像”としてのレベルは高い。
<入選> 下松市(山口県) 「くだまつ知っちょる検定」
市制70周年の記念映像ということで、恐らく様々なアイデアが出たはずだ。その中から、「クイズ形式で町を知る」という斬新な案を採用した、その勇気とチャレンジ精神に敬意を表したい。まず、「知っちょる検定」というネーミングが秀逸だ。また、この町のことなら何でも知っている「笑花童博士」などのオリジナル・キャラクターを駆使し、子どもたちも楽しんで参加できるよう工夫されているのも見事。
(月刊『広報』2010年6月号)
・・・というわけで、受賞の皆さん、おめでとうございます!
来年度も、ぜひ、がんばってください。