きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

中小企業と賃上げ① アトキンソン氏の「発見」とは

2024-11-10 07:08:34 | 経済・産業・中小企業対策など
中小企業と賃上げ① アトキンソン氏の「発見」とは

歴史的な物価高騰が国民生活を襲うなか、労働者の7割が勤務する中小企業での賃金引き上げが課題になっています。2023年2月に中小企業経営者を対象に中小企業の実態や必要な支援策について共同で調査した村上英吾・日本大学教授、中澤秀一・静岡県立大学准教授、小澤薫・新潟県立大学准教授に、政府の中小企業政策の問題点と対抗策について寄稿してもらいました。

日本大学教授 村上英吾さん

岸田文雄前政権は、デフレからの完全脱却には物価上昇を上回る賃上げの実現が必要だとして、財界への賃上げ要請や最低賃金の引き上げ、賃金や原材料価格の「適切な転嫁」が可能な環境の整備など、一見すると労働者や中小零細事業者の要求に沿うような政策を打ち出している面もありました。

中小企業を淘汰
しかし、「非効率な中小企業」を淘汰(とうた)し、生産性を高めるべきだという菅義偉政権(20年9月~21年10月)以来の政策基調自体は変わりません。新たに発足した石破茂政権でも変わらないでしょう。
菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張しました。
同氏は、経済協力開発機構(OECD)のデータで、従業員数20人未満の企業に勤める人の割合(小企業比率)と生産性、250人以上の企業に勤める人の割合(大企業比率)と生産性の関係を示すグラフを示し、「小さな規模で働く労働者の割合が高い国は生産性が低くなって、逆に小さな規模で働く労働者の割合が低い国は、生産性も高くなるというきわめてシンプル」な関係があると述べています。同氏はこれを「奇跡的な発見だと自負」し、企業の「統合」による大規模化を勧めます(同氏著『国運の分岐点』)。





アトキンソン氏の著書に掲載された二つのグラフ。上のグラフは二つの折れ線グラフでつくられているが、下のグラフは折れ線グラフと棒グラフの組み合わせ。比較対象国も、上のグラフのニュージーランドとフランスが、下のグラフではフィンランドとオーストラリアに替わっている

恣意的なグラフ
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きがあります。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を受けます。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。アトキンソン氏と同様、OECDの統計を用いて検証しました。
(つづく)(8回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月30日付掲載


菅元首相のブレーンの一人とされたデービツド・アトキンソン氏は、日本の経済成長を実現するためには生産性の低い中小企業を淘汰し、大企業比率を高めることが必要だと主張。
同氏が示したグラフには「OECDのデータより筆者作成」との注意書きが。しかし、よく見るとOECD加盟38力国のうち14力国だけが抽出されており、しかも小企業比率のグラフと大企業比率のグラフで抽出国が一部異なっていたり、一方は2本の折れ線グラフなのにもう一方は棒グラフと折れ線グラフの組み合わせとなっていたり、と恣意(しい)的な印象を。
これが本当に「奇跡的な発見」と言えるのでしょうか。

けいざい四季報2024Ⅲ (下) 金融政策 円安と株安の間で迷走

2024-10-13 06:37:33 | 経済・産業・中小企業対策など
けいざい四季報2024Ⅲ (下) 金融政策 円安と株安の間で迷走

【ポイント】
①一段と円安が進み、自民党政権の閣僚らから日銀の利上げを求める発言が続出
②日銀の利上げ決定を受けて株価が大暴落。金融緩和バブルであることが明白に
③「石破ショック」で円高・株安が急進。石破政権は株価優先の緩和路線を推進

日銀の金融政策に起因する,異常円安と株価暴落が相次いで起こり、石破茂政権の経済政策は株主の利益を最優先にする金融緩和路線に帰着しています。

利上げ求める
日銀が金融緩和を継続する下で、外国為替市場の円相場は7月初旬に1ドル=161円台まで急落。輸入物価上昇から値上げラッシュが再燃する懸念が高まりました。裏金事件などで支持率が落ち込んだ自民党政権の閣僚らからは利上げを求める発言が続出しました。
河野太郎デジタル相(当時)は7月17日、米国メディアのインタビューで日銀の利上げの必要性に言及したと報じられ、7月19日の記者会見で「金利が上がれば円高になるという理論を申し上げただけだ」と釈明しました。自民党の茂木敏充幹事長(当時)は7月22日の講演で日銀の金融政策に正面から注文を付け、「段階的な利上げの検討も含め、正常化する方向で着実に進める方針をもっと明確に打ち出すことが必要だ」と述べました。
日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を0・25%程度に引き上げると決定。植田和男総裁は記者会見で「物価が上振れるリスクには注意する必要がある」と述べ、追加利上げもありうるという考えを示しました。



日本銀行本店=東京都中央区

株価が大暴落
ところが、河野・茂木両氏の利上げ発言などを受けて進んだ円高が、日銀の決定を受けて急加速。同時に、日経平均株価が大暴落しました。
円相場は8月5日に一時、1月初旬以来の高値となる1ドル=141円69銭まで急上昇しました。日経平均株価の終値は同日の東京株式市場で前週末比4451円28銭(12・4%)も下落して3万1458円42銭となりました。7月11日に記録した史上最高値(4万2224円02銭)から、3週間余りで1万円超も値下がりしました。
日銀の「異次元金融緩和」がもたらす円安に依存し、低迷する実体経済から遊離して高騰した日本の株価は、わずかな利上げで崩壊へ向けて逆回転を始めるバブルであることが露呈しました。




緩和にもどる
衝撃を受けた政府は8月6日、財務省・金融庁・日銀の臨時会合を開き、政府と日銀が連携して金融市場の動向を見極めていくと確認。8月7日に日銀の内田眞一副総裁は「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける」と表明して植田総裁発言を覆し、利上げを当面封印する姿勢を示しました。これを受けて株価は再上昇を始めました。
しかし、金融政策の「正常化を期待します」と表明していた石破茂氏が9月27日に自民党総裁に選ばれると、再び金融市場で円高・株安が急進。「石破ショック」と呼ばれました。石破氏はたちまち手のひらを返し、9月29日のテレビ番組で「緩和の方向性は維持」すると述べて緩和路線に舞い戻りました。
現在、金融緩和継続の姿勢を鮮明にする石破政権の下で円安が進み、値上げ再燃の危険が高まっています。緩和を続ければ物価上昇、利上げに転じれば株価下落というジレンマに陥り迷走した政府・日銀は、株価優先の政策に帰着しています。経済政策を転換して国民全体の所得を底上げし、実体経済の低迷を打破しなければ、このジレンマから脱け出せません。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月12日付掲載


河野・茂木両氏の利上げ発言などを受けて進んだ円高が、日銀の決定を受けて急加速。同時に、日経平均株価が大暴落。
円相場は8月5日に一時、1月初旬以来の高値となる1ドル=141円69銭まで急上昇。日経平均株価の終値は同日の東京株式市場で前週末比4451円28銭(12・4%)も下落して3万1458円42銭。7月11日に記録した史上最高値(4万2224円02銭)から、3週間余りで1万円超も値下がり。
日銀の「異次元金融緩和」がもたらす円安に依存し、低迷する実体経済から遊離して高騰した日本の株価は、わずかな利上げで崩壊へ向けて逆回転を始めるバブルであることが露呈。
緩和を続ければ物価上昇、利上げに転じれば株価下落というジレンマに陥り迷走した政府・日銀は、株価優先の政策に帰着。経済政策を転換して国民全体の所得を底上げし、実体経済の低迷を打破しなければ、このジレンマから脱け出せません。

けいざい四季報2024Ⅲ (中) 国内経済 政府と生活実態のズレ鮮明

2024-10-12 07:05:49 | 経済・産業・中小企業対策など
けいざい四季報2024Ⅲ (中) 国内経済 政府と生活実態のズレ鮮明

【ポイント】
①実質賃金が前年同月比増に転換するも、ボーナスなど一時的な収入が要因
②食料品を中心に値上げラッシュが継続。
上半期の物価高倒産は過去最多に
③大企業の内部留保が過去最大を更新。政府は国民生活より大企業支援重視

政府は9月の月例経済報告で国内の景気判断を「緩やかに回復している」としました。しかし、タクシー運転手や小売店主などに街角の景気実感を聞いた景気ウオッチャー調査は9月、家計動向の指数を中心に低下し、4カ月ぶりに悪化しました。政府の認識と生活実態のズレが鮮明です。



店頭で品定めする買い物客=東京都内

上昇も一時的
7月の実質賃金は2カ月連続で前年を上回りました。実質賃金の上昇を受け武見敬三厚生労働相(当時)は記者会見で「賃上げの明るい動きが着実に現れてきている」と胸を張りました。しかし、実質賃金の内訳をみると、現金給与総額で0・3%の上昇となりましたが、基本給や残業代など、「きまって支給する給与」に限ると、1%の減少です。ボーナスなど一時的な収入が実質賃金を押し上げているのです。8月には「ボーナス効果」が剥落し、3カ月ぶりにマイナス圏入りしました。
そのため、所得の先行きが見通せず、8月の家計調査で実質消費支出(季節調整値)は前年同月比1・9%の減少でした。また、4~6月期の国内総生産(GDP)でも家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)は前年同期を0・42%下回り、減少は4期連続となりました。
食品の値上げ家計消費が低迷する背景に定期収入の伸び悩みに加えて、物価高騰があります。8月の全国消費者物価指数は前年同月比2・8%の上昇でした。物価上昇は食料品で目立ち3・6%増でした。とりわけ日々の食卓に欠かせない米類は28・3%の大幅上昇で、1975年9月以来48年11カ月ぶりの上昇幅を記録しました。先行指標とされる9月の都区部消費者物価も2・0%の上昇となっており、物価高騰が引き続く見通しです。
帝国データバンクのまとめでは、主要食品メーカー195社における10月の食品値上げは2911品目にのぼり、4月を上回る年内最大の値上げラッシュとなっています。同社によると4~9月期の物価高倒産は過去最多でした。


国内経済の主な出来事(7~9月)
7/223年度の個人株主過去最多に
7/5公取委がトヨタ子会社に下請法違反で勧告
7/11日経平均が史上最高値4万2224円
7/25百貨店の上半期免税売上高が過去最大3344億円を記録
7/31国土交通省がトヨタに型式認証不正で是正命令
7/31日銀が追加利上げを決定
8/5日経平均株価暴落、4451円安
8/8上半期経常黒字過去2番目の高水準
8/307月の完全失業率悪化2.7%
9/2大企業内部留保が539兆円に
9/6経産省が蓄電池生産に3479億円の補助金を発表
9/94~6月期GDP改定値が下方修正で年2.9%増に
9/11日経平均株価が7営業日続落
9/188月の貿易赤字、6953億円に
9/267月実質賃金確報値で0.3%増
9/279月の都区部物価、2.0%上昇


企業利益最大
国民生活が困窮する一方で、大企業は大もうけを続けています。2023年度の法人企業統計によると、資本金10億円以上の大企業(金融業と保険業を含む全産業)の内部留保は、539・3兆円と過去最大を更新しました。経常利益は76・3兆円、配当金は32・5兆円とそれぞれ過去最大を更新しています。
しかも政府はGX(グリーントランスフォーメーション=脱炭素)や経済安保などを口実に大企業に多額の補助金を注ぎ込んでいます。経済産業省は電気自動車向け蓄電池生産に最大3479億円の補助をすると発表。対象はトヨタや日産、スバル、マツダの大手自動車会社および関連メーカーです。
大企業を優遇する政治のもとで企業不祥事が目立ちます。7月31日にはトヨタ自動車が新車の型式認証の不正で国土交通省から是正命令を受けています。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月10日付掲載


政府は9月の月例経済報告で国内の景気判断を「緩やかに回復している」と。しかし、タクシー運転手や小売店主などに街角の景気実感を聞いた景気ウオッチャー調査は9月、家計動向の指数を中心に低下し、4カ月ぶりに悪化。政府の認識と生活実態のズレが鮮明。
食品の値上げ家計消費が低迷する背景に定期収入の伸び悩みに加えて、物価高騰が。8月の全国消費者物価指数は前年同月比2・8%の上昇。物価上昇は食料品で目立ち3・6%増。とりわけ日々の食卓に欠かせない米類は28・3%の大幅上昇で、1975年9月以来48年11カ月ぶりの上昇幅を記録。


けいざい四季報2024Ⅲ (上) 国際経済 巨大企業・富裕層包囲へ動き

2024-10-11 07:12:10 | 経済・産業・中小企業対策など
けいざい四季報2024Ⅲ (上) 国際経済 巨大企業・富裕層包囲へ動き

【ポイント】
①米国が0・5%の利下げ決定。「後手に回らない」と説明。マネーの流れに変化も
②G20で超富裕層課税への閣僚宣言。グローバルサウス台頭で「国際社会の勝利」
③EU、アップルの税逃れを断罪。「税制の正義」に向け市民社会、研究者らが共鳴

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を0・5%引き下げることを決めました。新たな政策金利は年4・75~5・00%。利下げは2020年3月以来4年半ぶりです。



記者会見するパウエルFRB議長=9月18日(ロイター)

積極的利下げ
市場関係者の間では、今回の引き下げ幅について、0・25ポイントと0・5ポイントで見方が拮抗(きっこう)していました。雇用情勢の失速をにらんで、積極的な利下げに踏み切った形です。パウエル議長は記者会見で大幅利下げを「私たちが後手に回らないよう力を尽くしていることの表れ」と表明しました。さらにパウエル議長は、「他の国々の中央銀行は何度も利下げを行ってきたが、私たちは待った。その忍耐が功を奏した」とも語り、金融政策の運営に自信をのぞかせました。
米国の高金利による「強いドル」が転換点を迎えたとの見方も出ています。今後、世界のマネーの流れの変化に注目が必要です。


世界経済の主な出来事(7~9月)
7/25G20財務相・中央銀行総裁会議、国際課税に関する閣僚宣言採択
7/28マレーシア、BRICSへの加盟を正式に申請
7/30米メタ、個人情報保護違反のテキサス州訴訟で14億ドルの和解金合意
8/1英イングランド銀行、政策金利を0.25ポイント引き下げ発表
8/16国連、国際租税協力枠組みのための「付託事項の草案」採択
8/23米国のパウエルFRB議長、ジャクソン・ホール会議で講演
8/29米国のサリバン大統領補佐官、習近平国家主席と会談
9/9韓国のソウルで「軍事領域における責任あるAI」サミット開催
9/10EU司法裁、米アップルに130億ユーロの追徴課税を決定
9/12欧州中央銀行(ECB)、政策金利を0.25ポイント引き下げ決定
9/18米FRBが0.5%引き下げを決定。利下げは4年半ぶり
9/19国連の諮問機関が「人類のためのAI統治」の最終報告書発表


課税強化宣言
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は7月25日、国際課税に関する閣僚宣言を採択し、超富裕層への課税強化などを盛り込みました。同宣言は、「超富裕層による攻撃的な租税回避や脱税は税制の公平性を損ない、累進、課税の有効性の低下を招く」と強調。超富裕層が効果的に課税されるよう協力して取り組むことを宣言しました。
G20に協力するパリ経済学院の研究機関「EUタックス・オブザーバトリー」の経済学者ズックマン氏は、世界のビリオネア(保有資産10億ドル以上)3000人にその財産の少なくとも2%に相当する課税を行えば、年間2000億~2500億ドル(約28兆~35兆円)を確保できると主張しています。同氏によれば、現在ビリオネアへの実際の課税は、財産のわずか0・3%にすぎません。
G20議長国は、グローバルサウスの代表格であるブラジルです。同国のアダジ財務相は、「われわれは、これをブラジルと国際社会の勝利と考えている」と述べました。
市民らが共鳴欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(最高裁に相当)は9月10日、アイルランド政府による米アップルへの税制優遇は違法だとして、同社に最大130億ユーロ(約2兆円)の追徴課税を決めたEU欧州委員会の決定を支持し、大企業の税逃れを断罪しました。また、米グーグルが商品比較サイト上で支配的地位を乱用してEU競争法(独占禁止法)に違反したとして、同社に24億2000万ユーロ(約3800億円)の制裁金を科した欧州委の17年の決定についても支持する判断を下しました。
アップルは、税負担を軽くするためアイルランドに法人を設立し利益を集中。これにより同社が欧州で上げた利益に対する実質的な税負担率は、14年にはわずか0・005%でした。
「欧州市民と税制の正義にとって大きな勝利だ」。欧州委員会のベステアー上級副委員長は10日の記者会見で力強く語りました。内部文書を報じた調査報道ジャーナリストたちによる大企業の税逃れが注目を集めていたことを指摘。大企業が公平に税金を支払わなければ、必要な資金源が損なわれ、社会保障、教育、公共インフラなどに影響が出ると指摘しました。
調査報道ジャーナリズム、公正な課税を求める市民、研究者らの市民社会とグローバルサウスの力が共鳴し存在感を示しています。
(つづく)(3回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年10月9日付掲載


パウエル議長は記者会見で大幅利下げを「私たちが後手に回らないよう力を尽くしていることの表れ」と表明。さらにパウエル議長は、「他の国々の中央銀行は何度も利下げを行ってきたが、私たちは待った。その忍耐が功を奏した」とも語り、金融政策の運営に自信を。
日本は今から利上げをしようとしている。周回遅れです。
G20に協力するパリ経済学院の研究機関「EUタックス・オブザーバトリー」の経済学者ズックマン氏は、世界のビリオネア(保有資産10億ドル以上)3000人にその財産の少なくとも2%に相当する課税を行えば、年間2000億~2500億ドル(約28兆~35兆円)を確保できると主張。同氏によれば、現在ビリオネアへの実際の課税は、財産のわずか0・3%にすぎません。
G20議長国は、グローバルサウスの代表格であるブラジルです。同国のアダジ財務相は、「われわれは、これをブラジルと国際社会の勝利と考えている」と。
日本も、大企業の内部留保に限定的に課税で10兆円の財源を。

グローバル経済と女性 フェミニズム経済学の視点 長田華子茨城大准教授に聞く⑤ マクロ経済政策にも偏見

2024-09-08 07:15:36 | 経済・産業・中小企業対策など
グローバル経済と女性 フェミニズム経済学の視点 長田華子茨城大准教授に聞く⑤ マクロ経済政策にも偏見

―フェミニスト経済学はマクロ経済学やマクロ経済政策をどのように見ますか?
マクロ経済学は一国経済全体に関わる指標を扱います。国内総生産(GDP)、GDPの成長率、国際収支、財政収支、失業率、金利などの経済指標は、一見ジェンダー中立であるかの、ように見えます。しかし実際にはそうではありません。

より不平等助長
フェミニスト経済学者が最初にマクロ経済政策とジェンダーの関係に強い関心を抱いたのは1980年代以降、開発途上国における公的債務の削減を目的に国際通貨基金(IMF)や世界銀行が導入した構造調整政策がジェンダー不平等を拡大、助長していたことでした。
構造調整政策は各国がIMFや世界銀行から金融支援を受ける際に強要される一連の政策パッケージです。貿易・金融の自由化・通貨切り下げ、公務員賃金の引き下げのほか、公的社会ケアサービス部門の民営化や補助金の削減など公的支出の削減を求めました。
無償のケア労働や自家消費用の食料生産、水くみなどへの負担で女性の教育や労働市場への参加の機会が制限されていた途上国では、人々の生活はさらに貧しくなり、特に女性への影響は甚大でした。
アジア通貨危機では、金融機関や企業の経営破綻が相次ぐなか、大量の失業が発生しました。主な稼ぎ手であった男性の失業や雇用不安が生じる一方で、家計のために女性が新規就業や労働時間の増加という形で労働市場に参加する傾向が見られました。とりわけ、インフォーマル部門の零細事業に女性労働者が流入し、きわめて低い報酬と適正な労働基準が保障されない待遇を余儀なくされていたのです。



コロナ禍での女性に対する暴力の急増を警告するグレテス国連事務総長=2020年4月5日、UNウェブTVから

―公平中立を装うマクロ経済政策が不平等な作用を及ぼすということですね。
IMFと世界銀行の構造調整政策パッケージは、いまや新自由主義的な資本主義政策として批判されています。フェミニスト経済学者は、これに加えて、こうした政策対応が繰り返される理由に、男性バイアス(偏見)があることを指摘し、問題提起をしてきました。


差別と抑圧解消
日本ではコロナ禍で過度な女性のケア負担が可視化されました。通貨・金融危機のたびに繰り返しフェミニスト経済学者が警告してきたことと重なりますが、有効な対応策は取られませんでした。
フェミニスト経済学はケアを受ける存在としての人間のニーズ(要求)を充足させるために財やサービスの生産や提供、保管を意味する「プロビジョニング」の観点からマクロ経済を捉えなおすことを提唱しています。
同時にフェミニスト経済学は、万人の差別や抑圧を解消するという立場性を表明しています。格差、貧困、気候危機、そして戦争。私たちは、今直面する地球規模の課題にどう向き合うのか。ジェンダー平等や人間のウェルビーイング(より良い暮らし向き)、そして社会正義の点からみた打開策が求められているのではないでしょうか。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年8月31日付掲載


IMFと世界銀行の構造調整政策パッケージは、いまや新自由主義的な資本主義政策として批判。フェミニスト経済学者は、これに加えて、こうした政策対応が繰り返される理由に、男性バイアス(偏見)があることを指摘し、問題提起。
フェミニスト経済学は、万人の差別や抑圧を解消するという立場性を表明。格差、貧困、気候危機、そして戦争。私たちは、今直面する地球規模の課題にどう向き合うのか。ジェンダー平等や人間のウェルビーイング(より良い暮らし向き)、そして社会正義の点からみた打開策が求められている。