きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

どうぶつえん獣医師奮闘記③ サイの採血はできるのか?

2010-10-06 22:48:10 | 政治・社会問題について
どうぶつえん獣医師奮闘記③ サイの採血はできるのか?

 この地球上には5種類のサイが住んでいます。アフリカのクロサイとシロサイ、アジアにはインドサイとスマトラサイ、ジャワサイ。いずれのサイも野生での生息数は大幅に減少し、特にジャワサイとスマトラサイは絶滅寸前です。

 天王寺動物園が1960年代から飼育と繁殖に力を入れてきたクロサイは、サハラ砂漠以南のアフリカ全土にかつては広く分布し、100年ほど前は野生で約10万頭も生息していました。しかしサイの角が解熱剤や強壮薬として珍重されたり、短剣の装飾用として重宝されたりすることから、角目当ての密猟が絶えず、75年ごろには2万頭ほどに、95年にはわずか3千頭くらいにまで激減してしまいました。現在ではジンバブエ、南アフリカ、ナミビアなどアフリカ南部にしか見られなくなりましたが、角さえなければサイも密猟者に狙われることもないのでしょうに。



専用注射器で
 さて天王寺動物園で初めてのクロサイ誕生は72年。赤ちゃんはメスでサッチャンという名前をもらいました。サイは1トンを超える大型動物の割には臆病で、神経質な動物ですが、サッチャンは動物園生まれということもあってか、飼育担当者や私たち獣医師にもよく慣れてくれました。私は毎朝、園内を巡視する際、ポケットにニンジンやパンなどをいつも忍ばせていました。このオヤツで動物を近くに寄せて観察するのです。サッチャンも私のニンジンを待ち焦がれる動物で、餌を与えながら鼻先や首筋を触り、話しかけ、その日の健康状態をチェックするのが日課でした。
 ところが81年8月30日、サッチャンの尿に血が混じっているのが分かりました。食欲が日ごとに落ち、9月13日からはまったく餌を食べなくなりました。尿検査では潜血反応と尿タンパク陽性しか分からず、一応細菌性の腎炎を疑い、抗生物質の注射を毎日することにしました。といってもサイの皮膚の厚さは2センチ以上、そして古くなった餅のような固さ。動物に使用する注射器や注射針は通常、ヒトと同じものを使いますが、サイの場合はそうはいきません。
 近寄って直接の注射は危険なので、3メートルほど離れたところから、専用のピストルにアルミ製の専用注射器(針の長さは6センチ、太さは2ミリ)を装てんし、お尻めがけて発射。あたった衝撃で中の薬液が火薬の力でサイの筋肉に注入される仕組みなのです。治療を始めて4日目、微量な血液さえあれば正確な診断ができると、私は採血を試みました。唯一血管が分かるのは耳のところ。ニンジンで側に寄せ耳を持ったもののサッチャンは耳をパタパタと動かしとても採血は無理。それならば皮膚の柔らかい尻尾の裏側を狙おうと、私は無謀にもサッチャンの部屋に入り込んで背後に回り、尾を片手で持ち上げ、尾静脈からの採血を試みました。


私に向き直り
 元気を失っていたサッチャンでしたが気力を振り絞って私に向き直ったのにはびっくり。角で突かれると思った瞬間、サイの部屋から飛び出していました。本当に怖かったです。採血は失敗しましたが、連日の抗生物質の注射で回復したときはうれしさでいっぱいでした。
 サッチャンはその後、8回も出産し5頭の子どもを育てました。そのうちの1頭はイギリスの動物園に婿入りし、そこでサッチャンの孫に当たる子どもが2年前に誕生しています。(金曜掲載)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2010年9月17日付掲載


サイの様な固い皮の動物も採血できる場所があるんですね。サイやカバなど普段は穏和な動物でも異変を感じると向かってくるんですね。
本人は、ちょっとじゃれているつもりでも体格が人間と全然違いますので致死傷を負うことになりかねません。
草食性と言っても、相手は野生の動物ですのでそのつもりで接する必要がありますね。