新医協の全国研究集会から① ジェンダーめぐりシンポ 3人が報告
幅広い医療、福祉、保健の分野の仕事に従事する人たちでつくる新医協(新日本医師協会)は11月12、13の両日、オンラインと東京都内の会場で第75回総会全国研究集会を開きました。12日には、「ジェンダー平等の現状とその背景」と題するシンポジウムが開かれ、3人が報告。参加者と活発に交流しました。(徳永慎二)
3人の報告のあと意見を交流するオンラインと会場の参加者=11月12日、東京都内
偏見からの解放
新医協会長で脳神経外科医師の今田隆一さんが、「ジェンダーバイアス(偏見)からの解放そして支え合いの社会をめざして」と題して基調報告しました。
今田さんは“男は仕事、女は家庭”という性別役割分業の考え方のもとで「異常に長い女性の家事労働を招いている。
一方でそれへの公的財政支援(家族関係社会支出)は低く抑えられてきた」と、内外の統計資料を示しました。人間の活動を「公的」と「私的」に分けた場合、無償のケア労働など「私的領域」に女性を閉じ込めていると指摘しました。
コミュニケーション上の「世界共通の傾向」として、「説明するのは男」「男は女性の発言を遮る」「発言を横取りする」を指摘し、「性差別の気づき」を促しました。
女性への偏見や固定観念を打ち破る、世界の脳科学者や言語学者、社会学者の著作・研究を紹介。また、ジェンダーとのかかわりで西洋と日本の歴史にふれ、日本の家父長制の形成、男性優位の財産権など民法の成立事情を明らかにしました。
日本の女性議員数の低さとともに、女性参政権導入によって政治の民主化指標が上昇した国別グラフを示しました。
児童虐待を通して
「児童虐待からみたジェンダーギャップ」と題して、保健師の田村道子さんが報告しました。
田村さんは、児童虐待のリスク要因として、望まない妊娠や10代の妊娠、経済問題などをあげました。いくつかの人工妊娠中絶にかかわる相談事例も紹介。女性の苦悩の背景に、人工妊娠中絶には原則として配偶者の同意が必要という法的規定があることを指摘しました。
加えて「女性の置かれている厳しい社会状況」を多くの資料で示しました。
第1子出産前後のパート・派遣労働者の離職率は74・8%(2018年政府資料)。平均給与が女性は男性の55%(20年の民間給与実態統計調査)。6歳未満の子どもを持つ家事・育児時間は、男性の5・5倍(20年政府資料)などです。
田村さんは児童虐待をも生むジェンダーギャップの解決策として①子どものころからの男女平等の教育・性教育の実施②男女の賃金格差の解消③人工妊娠中絶での配偶者の同意撤廃―を提言しました。
包括的な性教育を
「大人にこそ必要な性の学び」と題して報告したのは“人間と性”教育研究協議会(性教協)代表幹事の水野哲夫さん。
「性教育といってもさまざまで中身が大事」として、純潔教育、道徳的性教育など多様な性教育をあげました。性教協がすすめている包括的性教育について、同教育に関する国際的な指針として作成された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の八つの「キーコンセプト」(基本となる構想)(注)を紹介しました。
日本は世界116位という22年のジェンダーギャップ指数に関して「上位の国々は包括的性教育を学校の必修学習にしており、包括的性教育とジェンダー平等の進展には相関関係がある」とのべました。
18カ国1万45人(日本からは妊娠希望のカップル481人が参加)が回答したアンケート調査(10年)を紹介。「妊娠に関する知識の程度」について、日本は100点満点で37・2点、18カ国中17位でした。水野さんは「日本人がきちんとした性教育を受けてこなかった」結果と指摘。17年調査で、中学校での性教育はフィンランド年約17時間、韓国約10時間に対し、日本は約3時間でした。
水野さんは「多様性と人権が尊重される社会をつくるためにも、おとなにこそ包括的な性の学びが必要」と提起しました。
【包括的性教育】
人権と多様性とジェンダー平等に立脚した性教育。科学的に正確で、年齢・成長に即して幅広い内容をカリキュラムとして編成しています。学習者に変化をもたらし、健康的な選択のための力を発達させるような性教育。
◇
【八つのキーコンセプト】
①人間関係②価値観、人権、文化、セクシュアリティ③ジェンダーの理解④暴力と安全確保⑤健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル⑥人間のからだと発達⑦セクシュアリティと性行動⑧性と生殖に関する健康
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月30日付掲載
今田さんは人間の活動を「公的」と「私的」に分けた場合、無償のケア労働など「私的領域」に女性を閉じ込めていると指摘。コミュニケーション上の「世界共通の傾向」として、「説明するのは男」「男は女性の発言を遮る」「発言を横取りする」を指摘し、「性差別の気づき」を促し。
田村さんは児童虐待をも生むジェンダーギャップの解決策として①子どものころからの男女平等の教育・性教育の実施②男女の賃金格差の解消③人工妊娠中絶での配偶者の同意撤廃―を提言。
水野さんは「日本人がきちんとした性教育を受けてこなかった」結果と指摘。17年調査で、中学校での性教育はフィンランド年約17時間、韓国約10時間に対し、日本は約3時間。多様性と人権が尊重される社会をつくるためにも、おとなにこそ包括的な性の学びが必要と。
幅広い医療、福祉、保健の分野の仕事に従事する人たちでつくる新医協(新日本医師協会)は11月12、13の両日、オンラインと東京都内の会場で第75回総会全国研究集会を開きました。12日には、「ジェンダー平等の現状とその背景」と題するシンポジウムが開かれ、3人が報告。参加者と活発に交流しました。(徳永慎二)
3人の報告のあと意見を交流するオンラインと会場の参加者=11月12日、東京都内
偏見からの解放
新医協会長で脳神経外科医師の今田隆一さんが、「ジェンダーバイアス(偏見)からの解放そして支え合いの社会をめざして」と題して基調報告しました。
今田さんは“男は仕事、女は家庭”という性別役割分業の考え方のもとで「異常に長い女性の家事労働を招いている。
一方でそれへの公的財政支援(家族関係社会支出)は低く抑えられてきた」と、内外の統計資料を示しました。人間の活動を「公的」と「私的」に分けた場合、無償のケア労働など「私的領域」に女性を閉じ込めていると指摘しました。
コミュニケーション上の「世界共通の傾向」として、「説明するのは男」「男は女性の発言を遮る」「発言を横取りする」を指摘し、「性差別の気づき」を促しました。
女性への偏見や固定観念を打ち破る、世界の脳科学者や言語学者、社会学者の著作・研究を紹介。また、ジェンダーとのかかわりで西洋と日本の歴史にふれ、日本の家父長制の形成、男性優位の財産権など民法の成立事情を明らかにしました。
日本の女性議員数の低さとともに、女性参政権導入によって政治の民主化指標が上昇した国別グラフを示しました。
児童虐待を通して
「児童虐待からみたジェンダーギャップ」と題して、保健師の田村道子さんが報告しました。
田村さんは、児童虐待のリスク要因として、望まない妊娠や10代の妊娠、経済問題などをあげました。いくつかの人工妊娠中絶にかかわる相談事例も紹介。女性の苦悩の背景に、人工妊娠中絶には原則として配偶者の同意が必要という法的規定があることを指摘しました。
加えて「女性の置かれている厳しい社会状況」を多くの資料で示しました。
第1子出産前後のパート・派遣労働者の離職率は74・8%(2018年政府資料)。平均給与が女性は男性の55%(20年の民間給与実態統計調査)。6歳未満の子どもを持つ家事・育児時間は、男性の5・5倍(20年政府資料)などです。
田村さんは児童虐待をも生むジェンダーギャップの解決策として①子どものころからの男女平等の教育・性教育の実施②男女の賃金格差の解消③人工妊娠中絶での配偶者の同意撤廃―を提言しました。
包括的な性教育を
「大人にこそ必要な性の学び」と題して報告したのは“人間と性”教育研究協議会(性教協)代表幹事の水野哲夫さん。
「性教育といってもさまざまで中身が大事」として、純潔教育、道徳的性教育など多様な性教育をあげました。性教協がすすめている包括的性教育について、同教育に関する国際的な指針として作成された「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の八つの「キーコンセプト」(基本となる構想)(注)を紹介しました。
日本は世界116位という22年のジェンダーギャップ指数に関して「上位の国々は包括的性教育を学校の必修学習にしており、包括的性教育とジェンダー平等の進展には相関関係がある」とのべました。
18カ国1万45人(日本からは妊娠希望のカップル481人が参加)が回答したアンケート調査(10年)を紹介。「妊娠に関する知識の程度」について、日本は100点満点で37・2点、18カ国中17位でした。水野さんは「日本人がきちんとした性教育を受けてこなかった」結果と指摘。17年調査で、中学校での性教育はフィンランド年約17時間、韓国約10時間に対し、日本は約3時間でした。
水野さんは「多様性と人権が尊重される社会をつくるためにも、おとなにこそ包括的な性の学びが必要」と提起しました。
【包括的性教育】
人権と多様性とジェンダー平等に立脚した性教育。科学的に正確で、年齢・成長に即して幅広い内容をカリキュラムとして編成しています。学習者に変化をもたらし、健康的な選択のための力を発達させるような性教育。
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【八つのキーコンセプト】
①人間関係②価値観、人権、文化、セクシュアリティ③ジェンダーの理解④暴力と安全確保⑤健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル⑥人間のからだと発達⑦セクシュアリティと性行動⑧性と生殖に関する健康
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月30日付掲載
今田さんは人間の活動を「公的」と「私的」に分けた場合、無償のケア労働など「私的領域」に女性を閉じ込めていると指摘。コミュニケーション上の「世界共通の傾向」として、「説明するのは男」「男は女性の発言を遮る」「発言を横取りする」を指摘し、「性差別の気づき」を促し。
田村さんは児童虐待をも生むジェンダーギャップの解決策として①子どものころからの男女平等の教育・性教育の実施②男女の賃金格差の解消③人工妊娠中絶での配偶者の同意撤廃―を提言。
水野さんは「日本人がきちんとした性教育を受けてこなかった」結果と指摘。17年調査で、中学校での性教育はフィンランド年約17時間、韓国約10時間に対し、日本は約3時間。多様性と人権が尊重される社会をつくるためにも、おとなにこそ包括的な性の学びが必要と。