世界経済の構造転換③ 中国に追い抜かれる米
二大経済国家の米中対立が激化しています。攻撃するのは米国で、反撃するのが中国です。ここには、戦後の既得権益を脅かされつつある国の危機感と、追いつき追い越そうとする国の立ち位置の違いが見えます。
GDP既に逆転
一物一価の法則を基準にした為替レート(購買力平価・ビッグマック指数)で比較すると、各国の本当の経済規模が分かります。すると、米国の国内総生産(GDP)は2016年に中国に追い抜かれました。危機感をもった米国は中国へ圧力をかけ始めます。22年には中国のGDPは30・2兆ドルに達し、米国は25・4兆ドルにとどまります。メディアで報じられませんが、日本のGDPは09年にインドに抜かれました。(図)
経済力を増強しようとする中国の対外戦略は、アジア―中東―ヨーロッパ―アフリカを網羅する広域経済圏構想「一帯一路」政策(17年)です。陸と海のシルクロードを現代的にバージョンアップしたこの政策は、ユーラシア大陸の全域・世界人口の6割ほどの経済圏を形成します。
「一帯一路」政策は、中国市場の拡大、エネルギー・食料資源の確保、国内余剰労働者問題の解決、外交上の安全保障の強化など、多方面で中国経済と影響力を拡大します。すでに米国の貿易総額の20%は中国に依存しています。米国の世界支配の既得権益は著しく侵されはじめました。これが米中対立の基本的な背景です。
中国は、科学技術の基礎的な指標である論文数・研究者数・政府の予算額などで、米国を追い抜いています。企業の特許数でも中国のアリババがトップです。いずれ研究内容も高度化するでしょうから、米国の危機意識はいやが上にも高まります。
米国による中国たたきは、中国のIT(情報技術)最先端企業・ファーウェイ(HUAWEI)の排除に見られるように、科学技術をめぐって展開されています。科学技術は世界の公共財であり、その発展を止めることは中国だけでなく世界にとって不幸なことです。米国の既得権益を守ろうとする「アメリカ・ファースト」戦略は、中国だけでなく世界にとって不利益をもたらします。
独自決済網重視
歴史上、覇権国家は自国の弱点を周辺国のせいにし、周辺国の犠牲で覇権を維持してきました。戦後の「日米貿易摩擦」、「プラザ合意」や現在の「米中貿易摩擦」はその身近な例と言えるでしょう。
戦後、米ドルは、米国内だけでなく、国際取引の決済や各国の外貨準備の主要通貨=基軸通貨として機能してきました。しかし、1999年にユーロが登場し、最近では中国のデジタル人民元の登場などにより、米ドルの地位は低下してきました。各国外貨準備に占める米ドルの割合は、戦後の9割台から5割台に低下しました。
米ドルにとって脅威なのは、中国のデジタル人民元です。それは人民元が米ドルに代わる国際通貨になることでなく、「一帯一路」の広域経済圏に米ドルの入り込む余地がなくなる脅威と言えます。
中国がデジタル人民元の使用を重視するのは、ウクライナ侵略への経済制裁として米欧諸国がロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークから排除する措置をとったからです。インドもこの措置に反応し、インド・ルピーの独自の決済網を重視し始めています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年8月31日付掲載
中国の「一帯一路」政策(17年)。陸と海のシルクロードを現代的にバージョンアップしたこの政策は、ユーラシア大陸の全域・世界人口の6割ほどの経済圏を形成。
米国による中国たたきは、中国のIT(情報技術)最先端企業・ファーウェイ(HUAWEI)の排除に見られるように、科学技術をめぐって展開。科学技術は世界の公共財であり、その発展を止めることは中国だけでなく世界にとって不幸なこと。
基軸通貨も、米ドルだけでなく、ユーロ、デジタル人民元、インド・ルピーなど多元化。
二大経済国家の米中対立が激化しています。攻撃するのは米国で、反撃するのが中国です。ここには、戦後の既得権益を脅かされつつある国の危機感と、追いつき追い越そうとする国の立ち位置の違いが見えます。
GDP既に逆転
一物一価の法則を基準にした為替レート(購買力平価・ビッグマック指数)で比較すると、各国の本当の経済規模が分かります。すると、米国の国内総生産(GDP)は2016年に中国に追い抜かれました。危機感をもった米国は中国へ圧力をかけ始めます。22年には中国のGDPは30・2兆ドルに達し、米国は25・4兆ドルにとどまります。メディアで報じられませんが、日本のGDPは09年にインドに抜かれました。(図)
経済力を増強しようとする中国の対外戦略は、アジア―中東―ヨーロッパ―アフリカを網羅する広域経済圏構想「一帯一路」政策(17年)です。陸と海のシルクロードを現代的にバージョンアップしたこの政策は、ユーラシア大陸の全域・世界人口の6割ほどの経済圏を形成します。
「一帯一路」政策は、中国市場の拡大、エネルギー・食料資源の確保、国内余剰労働者問題の解決、外交上の安全保障の強化など、多方面で中国経済と影響力を拡大します。すでに米国の貿易総額の20%は中国に依存しています。米国の世界支配の既得権益は著しく侵されはじめました。これが米中対立の基本的な背景です。
中国は、科学技術の基礎的な指標である論文数・研究者数・政府の予算額などで、米国を追い抜いています。企業の特許数でも中国のアリババがトップです。いずれ研究内容も高度化するでしょうから、米国の危機意識はいやが上にも高まります。
米国による中国たたきは、中国のIT(情報技術)最先端企業・ファーウェイ(HUAWEI)の排除に見られるように、科学技術をめぐって展開されています。科学技術は世界の公共財であり、その発展を止めることは中国だけでなく世界にとって不幸なことです。米国の既得権益を守ろうとする「アメリカ・ファースト」戦略は、中国だけでなく世界にとって不利益をもたらします。
独自決済網重視
歴史上、覇権国家は自国の弱点を周辺国のせいにし、周辺国の犠牲で覇権を維持してきました。戦後の「日米貿易摩擦」、「プラザ合意」や現在の「米中貿易摩擦」はその身近な例と言えるでしょう。
戦後、米ドルは、米国内だけでなく、国際取引の決済や各国の外貨準備の主要通貨=基軸通貨として機能してきました。しかし、1999年にユーロが登場し、最近では中国のデジタル人民元の登場などにより、米ドルの地位は低下してきました。各国外貨準備に占める米ドルの割合は、戦後の9割台から5割台に低下しました。
米ドルにとって脅威なのは、中国のデジタル人民元です。それは人民元が米ドルに代わる国際通貨になることでなく、「一帯一路」の広域経済圏に米ドルの入り込む余地がなくなる脅威と言えます。
中国がデジタル人民元の使用を重視するのは、ウクライナ侵略への経済制裁として米欧諸国がロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)の国際決済ネットワークから排除する措置をとったからです。インドもこの措置に反応し、インド・ルピーの独自の決済網を重視し始めています。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年8月31日付掲載
中国の「一帯一路」政策(17年)。陸と海のシルクロードを現代的にバージョンアップしたこの政策は、ユーラシア大陸の全域・世界人口の6割ほどの経済圏を形成。
米国による中国たたきは、中国のIT(情報技術)最先端企業・ファーウェイ(HUAWEI)の排除に見られるように、科学技術をめぐって展開。科学技術は世界の公共財であり、その発展を止めることは中国だけでなく世界にとって不幸なこと。
基軸通貨も、米ドルだけでなく、ユーロ、デジタル人民元、インド・ルピーなど多元化。