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「鉄道唱歌」の成り立ち 寺社巡礼の旅受け継ぎ 地名・歴史を教え込む

2022-11-15 07:10:34 | 赤旗記事特集
「鉄道唱歌」の成り立ち 寺社巡礼の旅受け継ぎ 地名・歴史を教え込む
松村洋
まつむら・ひろし 評論家。音楽を中心に文化・社会評論多数。『日本鉄道歌謡史Ⅰ・Ⅱ』『唄に聴く沖縄』、『民謡からみた世界音楽』(共著)ほか

日本で鉄道が開業して今年で150年。鉄道は人々の暮らしに深く根づき、流行歌にもしばしば歌われてきた。岡本敦郎の「高原列車は行く」(1954年)は新婚旅行を明るく歌い、井沢八郎の「ああ上野駅」(64年)は集団就職の若者を乗せた列車が着いた上野駅を歌い、石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」(77年)では、その上野駅を発った夜行列車が雪の青森駅に着いた。鉄道の歌は数多いが、もっとも有名なのは、やはり「鉄道唱歌」だろう。



『地理教育 鉄道唱歌 第1集(東海道)』表紙(鉄道博物館所蔵)

伝統的音階でなじみやすく
「鉄道唱歌第一集(東海道)」が世に出たのは明治時代後半の1900年。まだレコードはなく、大阪の楽器商・三木佐助が出版した楽譜によって広まった。楽譜には、大和田建樹作の「汽笛一声新橋を」で始まる歌詞に、多梅稚(おおうめのわか)と上真行(うえざねみち)がそれぞれ付けた異なる2曲が載っていたが、後世に残ったのは多梅稚版だった。
三木は、東海道線の列車に吹奏楽隊を乗せ、各駅でこの曲を演奏させて派手に宣伝した。おかげで「第一集(東海道)」は大ヒットし、その後、全国各路線編が第五集まで作られた。
この歌は、ドレミ……から第4音「ファ」と第7音「シ」を抜いた「ドレミソラ」という音階でできている。「ヨナ抜き長音階」と呼ばれるこの5音音階は日本人の伝統的音感によくなじみ、歌いやすいので多くの流行歌に使われてきた。洋楽隊がにぎやかに演奏する「鉄道唱歌」は、人々の耳に清新かつ親しみやすく響いたに違いない。
伝統的要素は、歌詞にも見られる。民俗学者の柳田国男は、近代日本の観光旅行が伝統的な寺社参詣・巡礼の旅を受け継いでいたことを指摘している(『明治大正史世相編』)。伝統的な寺社参詣の旅では、最終目的地以外にいくつもの霊場を途中に組み込み、寺社以外の場所にも足を伸ばした。目的地に真っすぐ行くのではなく、寄り道を繰り返すのだ。



明治13(1880)年の汽車。やがて鉄道は全国に広がり、人々の薯らしに根づいた(鉄道博物館所蔵)

沿線の名所をうたい込んで
「鉄道唱歌(東海道)」にも泉岳寺、鶴岡八幡宮、三嶋大社、豊川稲荷など多くの寺社が歌い込まれ、その間に横須賀の軍艦見物や岐阜の鵜飼い見物なども折り込まれている。寄り道だらけのこの歌には、日本国の地名と歴史を人々に教え込む効果があった。
実は、この歌の正式名称は「地理教育鉄道唱歌」で、ちゃんと「教育」という看板が掲げられていた。近代の学校音楽教育用に作られた「唱歌」には、いわゆる子どもの情操教育とは異なる目的があった。唱歌は、近代日本の国民に必要とされた知識を刷り込む手段だった。だから「郵便貯金唱歌」「夏季衛生唱歌」など、国民啓蒙用の歌が数多く作られた。「鉄道唱歌」は官製ではなく民間の作だったが、やはりこの時代の国民啓蒙路線に沿った歌だったと言える。
さらに、地名列挙の教育には前史があった。近世の手習所や寺子屋では、地名を並べた「国づくし」などが文字と知識を習得するための教材として使われた。その地名列挙の伝統を受け継いだ「東北漫遊」(詞・酔郷学人)や「汽車の旅」(詞・横江鉄石)といった歌が「鉄道唱歌」の数年前に作られていた。こうした歴史の上に「鉄道唱歌」は成立したのである。
だが、現代の私たちは、寄り道旅にあまり興味がないようだ。リニア中央新幹線は、品川~大阪間を67分で結ぶ計画だという。効率至上主義は、寄り道をムダと見なし、一刻も早く目的地に着こうとする。移動速度が遅かった時代には、移動のプロセス自体が「旅」になった。一方、高速時代の移動はただの「移動」でしかなく、途中の通過点はまず意識されない。だが、効率優先の超高速移動が、はたして私たちの暮らしと文化を本当に豊かにしてくれるのかどうか。沿線の名所旧跡をたどって行く「鉄道唱歌」は今、そんなことも考えさせる。

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年11月9日付掲載


石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」(77年)では、その上野駅を発った夜行列車が雪の青森駅に着いた。鉄道の歌は数多いが、もっとも有名なのは、やはり「鉄道唱歌」。
鉄道唱歌が出た当時は、ドレミ……から第4音「ファ」と第7音「シ」を抜いた「ドレミソラ」という音階でできている。「ヨナ抜き長音階」と呼ばれるこの5音音階は日本人の伝統的音感によくなじみ、歌いやすいので多くの流行歌に使われてきた。
伝統的要素は、歌詞にも見られる。「鉄道唱歌(東海道)」にも泉岳寺、鶴岡八幡宮、三嶋大社、豊川稲荷など多くの寺社が歌い込まれ、その間に横須賀の軍艦見物や岐阜の鵜飼い見物なども折り込まれて。寄り道だらけのこの歌には、日本国の地名と歴史を人々に教え込む効果が。
移動速度が遅かった時代には、移動のプロセス自体が「旅」になった。一方、高速時代の移動はただの「移動」でしかなく、途中の通過点はまず意識されない。だが、効率優先の超高速移動が、はたして私たちの暮らしと文化を本当に豊かにしてくれるのかどうか。沿線の名所旧跡をたどって行く「鉄道唱歌」は今、そんなことも考えさせる。


鉄道唱歌はYouTubeにもアップされている。
鉄道唱歌(東海道線編)



鉄道唱歌(山陽本線編)


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