2022年06月02日 毎日新聞(北海道)
[ウクライナ侵攻影響 貝殻島周辺のコンブ漁 解禁日 出漁できず]
露との民間交渉遅れ、不安の声
例年は1日に解禁される北方領土・貝殻島周辺のコンブ漁。今年はロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて、操業条件を決める民間交渉の開始が遅れ、解禁日の出漁ができなかった。【本間浩昭】
濃霧が立ちこめて、時折、強い雨の降る早朝の珸瑶瑁(ごようまい)漁港(根室市)。例年であれば赤白2色に塗られた漁船が納沙布岬に集結する時刻を待って「いまや遅し」と港内で待機するが、今年は大半の漁船が岸壁に上架されたままだ。「この天候だと、とても出られない。仮に交渉がまとまっていたとしてもね」。軽トラックで港を見に来た漁業者がぼやいた。「それよりも今年、本当に出られるのかどうか、とても不安だ」
貝殻島周辺のコンブ漁は、日本と旧ソ連の民間協定に基づいて1963年に始まり、4年間(77~80年)の中断を挟んで毎年、行われてきた。操業条件を決める民間交渉は4月に始まり、遅くとも5月中旬に妥結する。だが、ロシアは3月7日、日本を「非友好国」に指定、貝殻島コンブ漁の民間交渉は大幅に遅れて5月27日に始まった。ロシアが実効支配する海域での操業だけに安全に操業できるかが焦点になっているとみられる。
出漁を予定するのは約230隻。温根元(おんねもと)漁港でエンジンの整備中だった50代の漁業者は「どのような交渉になっているのか分からない。相手は戦争をやっているロシア。いつもの年とはたぶん違う」と語る。「出られるものなのか、出られないのか、こちらが聞きたいぐらいだ」とも不安げに話した。
5月28日付の「ロシア漁業ニュースヘッドライン」は、ロシア漁業庁長官が記者会見で、日本との漁業協力の発展と重要性を指摘し、「太平洋サケ・マス漁などで両国の水域にまたがる資源管理に関した会合を行っている。漁業協定を維持して違法漁業を防ぐことが重要だ」と発言したと伝えるタス通信の記事を報じている。
ロシアのウクライナ侵攻は、北方領土周辺海域での漁業に大きな影響を与えている。日本の200カイリ内で操業する小型サケ・マス漁の政府間交渉も大幅に遅れて4月11日に始まり、11日後の22日に妥結、5月3日にやっと出漁した。貝殻島コンブ漁の民間交渉の行方は現時点で見通すことができない。