MJはいつも当日に連絡を入れてくる。
「今、東京にいるんだけど、飲まないか」。
普段は特に店のリクエストをしないが、今回は違った。
新橋の「大露地」に「行きたい」と指名してきた。
大衆酒場が好きなMJのことだから、きっとこてこての店なのだろう。
果たして、店に行ってみると、確かにその店は濃厚な酒場だった。
新橋は立ち飲みばかりに目を奪われ、座りの古典酒場には目もくれなかったが、なかなか立派な店構えである。
桜が散りゆく模様を染め抜いた紺の暖簾。
年季の入った木戸。
菱紋に大露地と書かれた看板。
これだけで、期待を高めるに十分だ。
店内は変わった配列だった。
長テーブル6人掛けの基本構成。したがって、相席である。
3×3の真ん中に通されたら、新幹線の3人掛けシートのように運が悪かったと思うしかない。
今回のボクらがそうだった。
両隣のお客さんに気を使いながら、椅子に座り、メニューを見た。
奥の厨房の庇の部分に木札のメニューが並べられている。
すぐに「ぬた」のメニューが目に飛び込んできた。
「ぬた」がある店は、古典的大衆酒場である。とびきり、おいしいわけでもないのだが、これがあるとどうしても頼んでしまう。
MJはといえば、メニューをガン見しながら、「ここの『ハムフライ』はすごいらしい」とボクに言った。
何がすごいのか。言葉の意味は分からないが、とにかくすごい自信だった。
ともかく、生ビールと「ぬた」、そしてその「ハムフライ」を頼むことにした。
やがて、現れた「ハムフライ」は本当にすごかった。
厚さ1cm。いや、1.5cmはあるハムのフライである。
一般的なハムカツは長方形だが、「ハムフライ」は円形である。
まさにハム。
なんともまぁ、贅沢な。
早速、かぶりついてみる。肉汁がしみ出すのがよく分かる。
これはうまい。うますぎる。
ビールを飲み干し、ボクは日本酒に。
「ぬた」に合うのは日本酒だ。この店、日本酒は「千福」。これもまた素晴らしい。
店の壁には吉田さんのポスター。
どうやら、類さん、この店にも現れた様子。
おっしゃる通り、相席がきついですよね。