都市化は終着駅という概念を変えたと思う。
鉄道の路線は乗り入れが進み、異なる鉄道会社で相互的な乗り入れが増えたことで、都内の終点駅はあまりみかけなくなった。
戸田市にある某社との仕事が多くなったことで、西高島平駅を利用するようになった。
この駅、近年珍しい終着駅のもの悲しさを漂わせる。
駅を降りると小さなスーパーがあるだけ。ラーメン屋さんは廃業したらしく、シャッターが閉まっている。
首都高速五号線が走り、空気が悪い。周囲はほとんど倉庫街だ。
東京の北の果てまで来たような。そんなもの悲しさを感じさせる駅である。
倉庫街で働く人が行く居酒屋がどこかにあるのではないかと考え、ボクは駅の周囲を探検したことがある。
だが、居酒屋はなかった。
ただ1店を除いては。
駅のすぐそばにある「田庄」という居酒屋。
西高島平駅近隣における唯一の居酒屋である。
とりたてて魅力的な酒場ではないのだが、やはり終着駅にある一抹のもの悲しさを、この酒場にも見てしまい、ボクはとうとう入ってみることにした。
田舎風の店である。
テーブルも柱も黒の塗装で統一され、灯に照らされ黒光りしている。
カウンターには常連と思しき爺さんが座り、あれこれと厨房のおやっさんに話しかけている。
ボクは4人掛けのテーブルに一人で座り、生ビールを頼んだ。
メニューをみると、お造りがあり、季節らしい料理が並ぶ。天ぷらなどの一品料理は割烹のようだ。
どうやら丁寧な仕事をする店主らしい。
それがまず気にいった。
ひじきのお通しが出てきてそれをつまむとみりんが効いたしっかりした出汁のおいしさが伝わってくる。
当たりだなと思った。
まぐろの刺身をもらった。
値段は失念したが、決して安価ではない。その仕事ぶりからすると、妥当な価格に思えた。
身がしっかりしており、魚の質はいい。この23区の果てにある酒場とは思えない仕入れの良さにボクは単純に感動した。
恐らく、他の料理も間違いないはずだ。
ボクは試しに豚の串焼きを頼んでみた。
これも期待に違わないしっかりとしたものが出てきた。
肉質、串の刺し方、そして焼き方、添えられたキャベツ。
あぁ、客のことをよく考えていると感じる一品だった。
この西高島平とおいう最果ての地にある酒場。
そこに咲く丁寧な仕事ぶり。
もったいないとボクは思う一方で、目立たなくともやっていくその地道な仕事ぶりにボクは感動を覚える。
その感謝を込めてボクはおいしく酒をいただいた。
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