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「大元」に初めて入ったのは、もう20年くらい前に遡る。
当時、この界隈には多くの営業先があった。TノメカトロニクスやJスなど。だから、当時は週に2回、この田町の芝浦口を歩いたものだ。
その頃、初めて「大元」に入った時の記憶はもうほとんどない。何を食べたかなんて、全く記憶にないのだ。ただ、お店の人が酷く横柄だったことはよく覚えている。それが強烈だったから、その後、ずっとお店に行くことはなかった。
この一年で、田町の芝浦口に降りる機会ができた。芝浦口は巨大なビルが建ち、すっかり変わった。あの当時、足繁く通った立ち食い蕎麦はもうない。運河の端を渡ると、居酒屋の「ロッキーカナイ」があり、そこを曲がると「大元」だ。変わらないのは「大元」くらいかも。そう思いながら、通り過ぎた。
ある日、虫が報せたのか、「大元」に入ってみようと思った。なんとなくだが、「この店も長くないかもしれない」と思ったのだ。
コロナの影響もあるし、そもそもお店の人ももう高齢だろう。いつ辞めてもおかしくないと思ったのだ。
店に入ると、高齢の店員さんがいた。自分が入店しても何も言わない。適当にカウンターに座った。20年前、横柄な態度だった人は、この老人だろうか。思い出す術がない。
「炒飯」をオーダーした。
お店は空いていたので、「炒飯」はすぐに出てきた。
ややパラ系。ボリュームはそれほど大きくもなく、見た目でそれほど鮮烈な印象は残らない。
ただ、一口いただくとしっかりとうまい。永年鍋を振るってきたベテランの味だ。大きな主張はないが、実はそこがいいのかもしれない。「炒飯」のようなスタンダードなものは特に主張する必要はない。わしわしと飽きることなく食べ続けられるものとして、常にスタンダードにあってほしいと思う。
食べ終わり、お金を払う段になって、老店員は「ありがとうございました」と2回言った。昔、嫌な思いをした店とは思えない丁寧な挨拶だった。
そのお礼の言葉に、ちょっとした寂寥感を特段感じなかったが、今になって思えば、もしかしたら、お店を畳む決意の中で絞り出した言葉なのではないかとも思う。
また、ひとつ町中華の灯が消えた。
永い間、お疲れさまでした。
お店にも人生と歴史があり、それを思うと閉店や廃業では言い表せないものを感じます。