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居酒屋放浪記NO.0210 - 下町の居酒屋は家庭の味 - 「居酒屋 歳時記」(荒川区南千住)

2008-12-02 13:30:33 | 居酒屋さすらい ◆東京都内
 「セブンイレブン台東日本堤2丁目店」を後にし、明治通りを都電「三ノ輪橋」駅の方角へ向かった。徒歩で約15分の距離である。「世界本店」は実在する立ち飲み屋ではなかったが、歴史的、地理的な背景から見ても訪れておかなければならない地であったことは確かだった。立ち飲みラリー「都電編」の始発駅代表としてもよかろうと自分に言い聞かせた。

 さて、「都電編」がようやくスタートしたことで、肩の荷が降りると、お腹がペコペコであることに気がついた。しかも、まだ「一番絞り」を1本しか飲んでいない。早く酒場に行って燃料を補給しなければ、と急いで「三ノ輪橋」駅の方へ向かった。

 実は「三ノ輪橋」駅の次の駅、「荒川一中前」にも一抹の不安があった。両駅の間隔は非常に狭く、今回の「三ノ輪橋」駅周辺を散策する中で「荒川一中前」の駅の周囲もあらかた回ってしまったのである。だが、やはりそこには立ち飲み屋を見つけることはできなかったのだ。
 もしかすると、「ジョイフル三ノ輪」の先に、何かがあるかもしれない、と思い、下見をしてみようと考えついたのである。

 「ジョイフル三ノ輪」とは三ノ輪橋駅北側を東西に走る商店街である。このアーケードがまた下町情緒をかき立てるのだ。八百屋、果物屋、焼鳥屋など、実に昭和の時代の懐かしい原風景がある。

 過日、日刊J動車新聞のA田記者と話しをすると、彼は興味深い話しを聞かせてくれた。彼の祖父母は三ノ輪に住まわれており、幼少の頃祖父母の家に行くと、決まって夕方に「大勝湯」へ行き、帰り道「ジョイフル三ノ輪」の屋台でたこ焼きなどを買って帰るのがひとつの楽しみであったというのだ。
 そんな「ジョイフル三ノ輪」を歩き、立ち飲み屋を探して歩き続けると、実にあっけなくアーケードは終焉を迎えた。
 通りから枝分かれしている小路も各所覗いてみたが、やはりそれらしいものは影も形も見えなかった。

 「今日は歩き疲れた」。
 実際、わたしはくたくただったのだ。
 すると目の前に何ともはや都合良く居酒屋が見えた。
 「歳時記」と看板が出ている。
 居酒屋というより蕎麦屋といった風情の店だが、わたしは迷わず入ることにした。

 店に入ると、やはり蕎麦屋の外観どおり、純和風の内装となっていた。
ポツンと小さな灯りがひとつ。一瞬、お店は閉まっているのかと勘違いしたほどだった。よくよく目を凝らすとお客は奥のカウンターにひとりだけいるのが見えた。
おそるおそる「こんばんは」とあいさつすると、カウンターの向こう側から返事が返ってきた。
 この店は元気なオヤジがやっているお店のようだった。

 店内中央に大きな円卓がある。奥は厨房にカウンター4席ほど。左奥は小上がりだ。
 わたしは、中央の大きな楕円の円卓に腰掛けた。
 まずは、生ビール(550円)に「煮込み」を頼む。
 だが、店のオヤジは浮かない顔でこう言った。
 「今日さ、『煮込み』、あんまり上手く出来なかったんだよ」。
 この店のオヤジは正直者なのか、それとも商売下手なのか。
 生ビールはジョッキがキンキンに冷え、泡もクリーミィに上手に注がれていた。ビールはスーパードライか?ちょっと判然としない。

 「煮込み」がないので、「おでん」(500円)を貰うことにした。
 「すぐ出来るものは何か」とオヤジに尋ねたら、「『おでん』なら早い」と返ってきたからだ。
 案の定、「おでん」は早くテーブルに出てきた。

 「おでん」の種は大根にこんぶ、玉子にがんもどき、そしてはんぺんだ。このオーソドックスな関東煮の種に、やはりおつゆも魚出汁の濃厚な醤油味だった。
 味は悪くないが、しかし何故こんな真夏に(しかもこの日はこの夏一番の暑さを記録)熱い「おでん」なのか。これでは、歳時記の名前が泣くゾ!などと思いながらハフハフと「おでん」にがっついた。

 おでんを平らげて、厨房のオヤジに聞いた。
 「酎ハイある?それから他に今日のお薦めは?」
 すると、奥から「酎ハイね。ちょっと待って。肴は『肉じゃが』なんてどう?」。
 また煮物だ。だが、「煮込みは不出来だった」と正直に申告するこのオヤジが推すのだから、よほど自信があるのだろう。そう思い、「じゃぁ、それ頂戴」と返した。

 酎ハイには甘みはなかった。焼酎をソーダで割った素朴な酎ハイだ。店の角、頭上にあるテレビ、NHK総合「ためしてガッテン」を見ながら、酎ハイを飲んでいると、やがて出てきたホクホクの「肉じゃが」(450円)。芋は煮くずれせず、微かな照りがついて目映い。早速、一口頬張ると、ほっこりしたじゃがいもとおつゆが口の中に広がる。何より、この割り下がなんともいえない。
 これは、まさに家庭の味だ。

 そういえば、妻と子と離れてもう少しで3週間が経とうとしている。彼女らは元気にやっているのだろうか。
 わたしは、家庭の味に飢えていたようだ。「おでん」も「肉じゃが」も魂にしみ入るようだ。オヤジはそんなことなど知る由もないだろう。否、もしかしたらそれを見越して、これら家庭の味を出したのか。
 そんな温かさが身に沁みた。

 

 帰り際、都電の始発駅に佇んでいると、1両編成の都電が入線してきた。その素朴な車両がまた懐かしい郷愁を誘う。何か、人寂しい気持ちになり、都電へと乗り込んだ。




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2 コメント

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煮込みに対する想い (まき子)
2008-12-04 09:44:03
「上手く出来なかったんだよね」なんて言って出さないオヤジさん、
好きです!!そういうお店!
自分の納得する味じゃなかったら、お客さんをガッカリさせる、
って分かってるってことですもん~。
そんな大差はない、どこにでもある「煮込み」かもしれませんが、
再訪してぜひとも煮込みにチャレンジしてみてください。
返信する
オヤジ! (熊猫刑事)
2008-12-04 13:08:29
なかなか好感が持てるオヤジさんでした。
「煮込み」マニアとして、やはり再訪しなければいけませんね。
きっと「家庭の味」の「煮込み」なのでしょう。

しかし、「上手くできなかった」と言うご主人はこれまでの居酒屋放浪で初めてのことでした。
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