居酒屋放浪記 番外編 ～それとも2月の粉雪に～ 「T根んチ」（さいたま市南区）

　会社の同僚、Ｔ根夫妻が昨年12月に自宅を購入した。
　土地つきの物件だ。
　まだ30歳の同僚が、その新居に招待してくれるという、２月のとある日曜日、わたしはいそいそと出かけてみたのであった。

　東十条駅より京浜東北線に乗り、南浦和駅まで。
　そこから武蔵野線で西浦和まで行く算段だったが、JRのトラブルで武蔵野線が全線で不通になった。このため30分以上も南浦和の駅で足止めをくうことになる。
　結局、Ｔ根邸に到着したのが、45分遅れの14時近くであった。

　そのＴ根邸は実にこぎれいな作りでわたしの気持ちを揺さぶったのである。
　土地はそれほど広いとは言えないが、駅近という立地、コンパクトながら３階建てで、スペースを補う造り。なかなか洒落た外観。けっこういいお宅なのである。
　中に案内されると、ほのかにまだ新しいおウチの匂いがする。
　１階が洗面所とお風呂場など。２階がキッチンとリビングになっており、生活の中心は、この２ndフロアーにあるようだ。その２階に通された。
　昼下がりの柔らかな陽が窓から差し込み、部屋を明るくする。
　そして、なんとも穏やかな気持ちになってくるのだ。
　新しい家はいいものだな。

　そこで、わたしの目の前にキリンの一番絞りが出されるのである。
　まだ、他のメンツが現れていないのに、だ。
　この日の招待者は、会社の同僚のＡ藤君とその奥様、そして、やはり同僚のＡ見さん、それに元同僚の今ｐである。やはり、電車のダイヤ遅れが原因で皆遅くなっている様子。わたしは、そのムラムラとした気持ちを抑えきれず、一番絞りのプルタブを引っ張ってみるのだった。

　テーブルの上には、豚バラの味噌焼きの他、ちらし寿司などが盛られた皿が並ぶ。
　どうやらＴ根が自分で作ったらしい。Ｔ根はニンテンドーDSを使って、最近料理に懲りだしているらしい。夫人Ｍ子さんからしてみれば、実に頼もしい旦那さんである。

　さて、そのつまみを早速つまんでみると、これがまた実においしいのである。
「最近、料理やっています」と言うＴ根。豪語するだけのことはあるようだ。
そうするちに、Ａ見さんが現れ、そしてＡ藤君夫妻が登場した。Ａ藤君の奥様、Ｒさんにお会いするのは一昨年（だったか）の夫妻の結婚式以来。お腹もだいぶ大きくなっており、６月のご出産もいよいよ近いことがうかがえる。

　さて、残りは今pだけだ。
　だが、彼との連絡は依然途絶えたままのようである。
　噂によると、いよいよ仕事が佳境に入っているとのこと。フリーランスはこういうときさすがに辛い。日曜日も仕事は待ってくれないのだ。
　とうとう、わたしは３本目の一番絞りを飲む段に至っているが、依然として今ｐは現れる気配すらないようである。

　ともあれ、６人による宴はまさしく楽しいものだった。
　新しいおウチに新婚さんが２組。そこに何故か、おっさん一人が潜り込ませてもらって、がぶがぶとお酒をいただく。
　やがて、Ｔ根秘蔵の芋焼酎が供出されたのである。
　実は、銘柄は残念ながら失念。
　だが、ロックでぐびぐびと飲むうちに、やがてその４合瓶は限りなく少なくなっていったのだ。

　どれくらい飲んで、食べて、喋っただろう。
　気がつくと陽はだいぶ傾き、夜の闇が近づいてきたようだ。

　「ちびまる子ちゃん」が始まる前に帰ろう。
　わたしは、一足先に辞して帰宅の途に。

　西浦和は微かにまだ夕日がそらの向こうに残っている。
　Ｔ根夫妻もＡ藤夫妻も幸せそうであった。
　人生、それだけでいいんじゃないかと思う。
　うまい酒とうまい料理は、その幸せの前菜にすぎなかった。
　さぁ、わたしも妻と子供が待つウチに帰ろう。


　―今pんチ編―
　
　■ 居酒屋放浪記 番外編 ～例えば5月の風に～「今ちゃん宅」