97年2月2日、わたしはヴェトナムのサパというところにいたことは、「オレたちの深夜特急」の最新アップ版にて記した。
それから、ちょうど10年後の同日、わたしは名古屋にいた。
サパは高地で朝晩ともにかなり冷え込んだが、この日の名古屋もかなり寒かった。なにせ、関が原付近で雪が降っており、この日の新幹線のダイヤを乱していたからだ。
サパで泊まっていた宿は1泊3ドルにも満たない宿泊費だったが、名古屋で宿泊するサンルート名古屋は恐らく1万数千円もしたことだろう。
もちろん、名古屋出張の宿代は自ら出費したものではないが、10年間という区切りの時間の中で泊まる宿を比較できるシチュエーションになるなんて、なんて因縁めいているのだろうと思った次第である。
そのサンルート名古屋で仕事が終わると、夜からはその仕事関係者との間で懇親会が開かれた。その懇親会、わたしは20時に終わるものだと思っており、その後は密かに夜の居 酒屋放浪を楽しみにしていたのである。
名古屋の居酒屋については、当ブログのコメントでお馴染みの「まき子の酒」まき子さんお薦めの「大甚本店」に決めていたのだが、懇親会は長引き、とうとう21時を回った頃にお開きになってしまった。
明治40年創業の「大甚本店」。太田和彦氏の「居酒屋味酒覧」(新潮社版)によると同店の閉店は21時半、ラストオーダーは21時となっている。
つまり、もうアウチだ。
名古屋出張は少なくないが、如何せん東京からその地は比較的近い。このため、泊まりの出張は極めて少ないのだ。だから、この好機を逃すと次はいつになることやら…。
ホテルサンルートを抜け出し、夜の名古屋の街に繰り出す。
数分歩くと名古屋駅の西口に出た。
名古屋近辺は詳しくなかったが、東口の方が心許せるお店が見つかるのではないかと、駅の構内を横断した。
本当は栄町あたりに行けば、そんな店も容易く見つかったのだろうが、案の定東口界隈には、それらしいお店がなかなか見つからなかったのである。
根気強く20分くらいうろうろして大衆のやっす~い酒場を捜したのだが、どうしても見つからなかった。その代わり、発見した店は手羽先屋さんで有名な「世界のやまちゃん」である。
しかも、至るところに店は支店を構えているようだ。
○○店を覗いて通り過ぎると、次にすぐ○○店が現れる。またしても、中を覗いて賑わい具合を確認して遣り過ごすとすぐさま、別の支店が見えてくる。結局半径500m内に4店もかたまっていた。
「えい!もういいや」
と半ばやけになって、一番繁盛してそうな名駅西口店に突入したのである。
金曜日の「やまちゃん」はものすごい賑わいを見せていた。
本当はカウンターがよかったのだが、空いている席は座敷のみ。
わたしは店の奥の方に通されて座敷に腰を落ち着けたのだった。
ちょうど、わたしと入れ替わりに隣の席の2人組が席を立つところだったが、そのテーブルを見て驚いた。多くの料理に食べ残しがある。それが、ひとつやふたつではない。見たところ、その宴席は接待などといった行事ではなく、友人同士の飲み会に見えたのだが、食い散らかされたテーブルは気持ちのいいものではなかった。
メニューカードはまるでファミレスのようにカラフルで光沢を帯びていたものだった。
座敷から見える目の前のテーブル席はジャリばかりが酒を飲んでいて、店内は騒がしかった。
店員を呼ぶために、テーブルに設置しているボタンを押した。
しばらくして、若い男の店員が現れ、わたしはプレミアムモルツの瓶ビール(441円)と 「幻の手羽先」1人前(380円)、そして店員が「名古屋らしいもの」として薦めてくれた「みそ串カツ」(360円)を注文する。
すると、またやや間があって、注文の男が瓶ビールを持って現れ、わたしの対面に座り、ビールをグラスに注いでくれるのである。
「本当は女の子の方がいいんでしょうが…」などと言いながら。
本音を言えば、男でも女でもビールを注いでほしくない。つまり、わたしは勝手気儘に飲みたいのだ。
最近、居酒屋の世界でも「顧客満足」という言葉が蔓延しつつあるようだ。どこぞのコンサルタントが経営に入ってきては、「CS」(=Customer Satisfaction)なるものを流布する。「居酒屋甲子園」なるNPO団体が、その「CS」を競っているほどである。
この「世界のやまちゃん」が「CS」を号令的にトップダウンしているかは分からないが、壁に貼ってある社員たちが書き綴る「てばさ記」なる壁新聞や、店員の仕草に見られるお客に媚び売る姿勢などは、はっきり言って暑苦しい。
ここは、堂々と料理と雰囲気、そして酒で勝負をしてほしい!と思ってしまうのである。
最近、FントオフィスのN崎さんという経営コンサルタントの講演を聞いた。「サービス業のCSに対する在り方」を述べた話しなのだが、その中で妙に共感した言葉があった。
「何にもしないのもCS」だ。
その論法についてはこの場では割愛するが、まさにその通りであると思う。
しかし、いつから世の中は「CS」なんてものに過敏になってしまったのだろうか。
さて、その同店のウリとする手羽先だが、確かに1つ目はおいしかった。箸袋に記された「上手な手羽先の食べ方」を参考にして、ポキンポキンと手羽を折って食べると、きれいにス~っと食べられるのである。だが、2個目、3個目を食べるにつれ、口がヒリヒリしてきた。要するに辛いのだ。いや、辛すぎるのだ。
はは~ん。辛いもので、喉を乾かしてビールを促進させる戦法だな。
なろ~っ!
次に触手を伸ばしたのが、名古屋名物、みそ串カツだ。
しかし、これが1人前5本もある。
うげ~っ。
実はホテルサンルートでの懇親会で散々食べて飲んだために、わたしのお腹ははちきれそうなまでにいっぱいなのだ。
みそ串カツを1本食べ、もう1本食べていくうちに、段々本気で苦しくなってきた。
残そうかな、という悪魔の囁きが聞こえてきたが、隣のテーブルに陣取った食べ残し野郎らに厳しく心の中で糾弾した手前、同じ行為をしてはいけない。
そこで、芋焼酎「海童」(濱田酒蔵(株))(360円)をロックで頼むことに。
別のお酒で胃腸を刺激して、フィニッシュしてやろうと考えた。
最後はほうほうの体であった。
若しくは、その様をテレビチャンピオン風と表現してもいい。
しかし、オレもごたくが多いな。
結局、「食べ残すな」とか「CS」がうんたらかんたらとか、「手羽先が辛すぎる!」とか「腹いっぱいだぁ」とか、オレのおっさんぶりが露呈しただけか。
っていうか、おっさんは「世界のやまちゃん」には行ってはいけなかったりして。
それから、ちょうど10年後の同日、わたしは名古屋にいた。
サパは高地で朝晩ともにかなり冷え込んだが、この日の名古屋もかなり寒かった。なにせ、関が原付近で雪が降っており、この日の新幹線のダイヤを乱していたからだ。
サパで泊まっていた宿は1泊3ドルにも満たない宿泊費だったが、名古屋で宿泊するサンルート名古屋は恐らく1万数千円もしたことだろう。
もちろん、名古屋出張の宿代は自ら出費したものではないが、10年間という区切りの時間の中で泊まる宿を比較できるシチュエーションになるなんて、なんて因縁めいているのだろうと思った次第である。
そのサンルート名古屋で仕事が終わると、夜からはその仕事関係者との間で懇親会が開かれた。その懇親会、わたしは20時に終わるものだと思っており、その後は密かに夜の居 酒屋放浪を楽しみにしていたのである。
名古屋の居酒屋については、当ブログのコメントでお馴染みの「まき子の酒」まき子さんお薦めの「大甚本店」に決めていたのだが、懇親会は長引き、とうとう21時を回った頃にお開きになってしまった。
明治40年創業の「大甚本店」。太田和彦氏の「居酒屋味酒覧」(新潮社版)によると同店の閉店は21時半、ラストオーダーは21時となっている。
つまり、もうアウチだ。
名古屋出張は少なくないが、如何せん東京からその地は比較的近い。このため、泊まりの出張は極めて少ないのだ。だから、この好機を逃すと次はいつになることやら…。
ホテルサンルートを抜け出し、夜の名古屋の街に繰り出す。
数分歩くと名古屋駅の西口に出た。
名古屋近辺は詳しくなかったが、東口の方が心許せるお店が見つかるのではないかと、駅の構内を横断した。
本当は栄町あたりに行けば、そんな店も容易く見つかったのだろうが、案の定東口界隈には、それらしいお店がなかなか見つからなかったのである。
根気強く20分くらいうろうろして大衆のやっす~い酒場を捜したのだが、どうしても見つからなかった。その代わり、発見した店は手羽先屋さんで有名な「世界のやまちゃん」である。
しかも、至るところに店は支店を構えているようだ。
○○店を覗いて通り過ぎると、次にすぐ○○店が現れる。またしても、中を覗いて賑わい具合を確認して遣り過ごすとすぐさま、別の支店が見えてくる。結局半径500m内に4店もかたまっていた。
「えい!もういいや」
と半ばやけになって、一番繁盛してそうな名駅西口店に突入したのである。
金曜日の「やまちゃん」はものすごい賑わいを見せていた。
本当はカウンターがよかったのだが、空いている席は座敷のみ。
わたしは店の奥の方に通されて座敷に腰を落ち着けたのだった。
ちょうど、わたしと入れ替わりに隣の席の2人組が席を立つところだったが、そのテーブルを見て驚いた。多くの料理に食べ残しがある。それが、ひとつやふたつではない。見たところ、その宴席は接待などといった行事ではなく、友人同士の飲み会に見えたのだが、食い散らかされたテーブルは気持ちのいいものではなかった。
メニューカードはまるでファミレスのようにカラフルで光沢を帯びていたものだった。
座敷から見える目の前のテーブル席はジャリばかりが酒を飲んでいて、店内は騒がしかった。
店員を呼ぶために、テーブルに設置しているボタンを押した。
しばらくして、若い男の店員が現れ、わたしはプレミアムモルツの瓶ビール(441円)と 「幻の手羽先」1人前(380円)、そして店員が「名古屋らしいもの」として薦めてくれた「みそ串カツ」(360円)を注文する。
すると、またやや間があって、注文の男が瓶ビールを持って現れ、わたしの対面に座り、ビールをグラスに注いでくれるのである。
「本当は女の子の方がいいんでしょうが…」などと言いながら。
本音を言えば、男でも女でもビールを注いでほしくない。つまり、わたしは勝手気儘に飲みたいのだ。
最近、居酒屋の世界でも「顧客満足」という言葉が蔓延しつつあるようだ。どこぞのコンサルタントが経営に入ってきては、「CS」(=Customer Satisfaction)なるものを流布する。「居酒屋甲子園」なるNPO団体が、その「CS」を競っているほどである。
この「世界のやまちゃん」が「CS」を号令的にトップダウンしているかは分からないが、壁に貼ってある社員たちが書き綴る「てばさ記」なる壁新聞や、店員の仕草に見られるお客に媚び売る姿勢などは、はっきり言って暑苦しい。
ここは、堂々と料理と雰囲気、そして酒で勝負をしてほしい!と思ってしまうのである。
最近、FントオフィスのN崎さんという経営コンサルタントの講演を聞いた。「サービス業のCSに対する在り方」を述べた話しなのだが、その中で妙に共感した言葉があった。
「何にもしないのもCS」だ。
その論法についてはこの場では割愛するが、まさにその通りであると思う。
しかし、いつから世の中は「CS」なんてものに過敏になってしまったのだろうか。
さて、その同店のウリとする手羽先だが、確かに1つ目はおいしかった。箸袋に記された「上手な手羽先の食べ方」を参考にして、ポキンポキンと手羽を折って食べると、きれいにス~っと食べられるのである。だが、2個目、3個目を食べるにつれ、口がヒリヒリしてきた。要するに辛いのだ。いや、辛すぎるのだ。
はは~ん。辛いもので、喉を乾かしてビールを促進させる戦法だな。
なろ~っ!
次に触手を伸ばしたのが、名古屋名物、みそ串カツだ。
しかし、これが1人前5本もある。
うげ~っ。
実はホテルサンルートでの懇親会で散々食べて飲んだために、わたしのお腹ははちきれそうなまでにいっぱいなのだ。
みそ串カツを1本食べ、もう1本食べていくうちに、段々本気で苦しくなってきた。
残そうかな、という悪魔の囁きが聞こえてきたが、隣のテーブルに陣取った食べ残し野郎らに厳しく心の中で糾弾した手前、同じ行為をしてはいけない。
そこで、芋焼酎「海童」(濱田酒蔵(株))(360円)をロックで頼むことに。
別のお酒で胃腸を刺激して、フィニッシュしてやろうと考えた。
最後はほうほうの体であった。
若しくは、その様をテレビチャンピオン風と表現してもいい。
しかし、オレもごたくが多いな。
結局、「食べ残すな」とか「CS」がうんたらかんたらとか、「手羽先が辛すぎる!」とか「腹いっぱいだぁ」とか、オレのおっさんぶりが露呈しただけか。
っていうか、おっさんは「世界のやまちゃん」には行ってはいけなかったりして。
でも、一度行っておくと、「もう2度と行かない」って思えるからいいかも?!
名古屋の観光向けアピールで手羽先が出だしてからというもの
なんだか微妙な方向に行ってしまった山ちゃんです。
ホームページで「やまちゃん」の店舗を確認しましたが、すっごいいっぱい支店があるんですね。おじさん、困りましたワ。