「男はつらいよ」の記念すべき第一作は、この柴又帝釈天裏手にある江戸川土手から始まる。恐らくは、現在「寅さん記念館」が建つあたりの土手に車寅次郎は座り込み、20年ぶりに帰ってきた柴又に目を細める。
寅さんが見下ろす江戸川河川敷はゴルフ練習場。だが、現在は草野球場になってはいるものの、景観はほとんど変わらない。
初回作で寅さんの妹さくらが挙式を挙げた「川魚料理 柴又川甚」も相変わらず、土手を見下ろしている。
このグラウンドで試合を終えたわたしは、ビールを求め柴又の町に繰り出した。
ここなら、たとえ昼間でもビールや酒に困ることはないだろう。
帝釈天の参道は今日もごった返しているはずだ。
一度、京成線の柴又駅まで戻り、そこから参道を目指すことにした。
駅前にはピアニカで演歌を演奏するストリートミュージシャンを発見、しばしそのパフォーマンスに聴き入った。
曲目は「北国の春」。
手つきは怪しいが、春もたけなわのこの時期に、この曲は日本人の琴線にふれる。
さて、時刻は11時を回ろうとしている。
昼飯時になれば厄介だ。
そこで、わたしは参道に向けて歩き出したのだが、いきなり「もつ焼き」を出す店に出喰わした。
「もつ焼き」があれば「煮込み」もある。そう思い、わたしは迷うことなく店に入った。
しかし、この店が食わせもんだった。
まず、店員の対応が極めて不快だった。
しかし、ぞんざいな態度をする店は珍しくないし、わたしもそれには慣れているつもり。また、たまたま接客を心得ていない店員にたまたま当たっただけなのかもしれないので、そこにはいちいちめくじらを立てるつもりもない。
問題はわたしが頼んだ「生ビール3点セット」(1,100円)にある。
これは、中ジョッキの生ビールに「もつ煮込み」「もも串」が2本付いているという代物だが、問題は「もつ煮込み」のクオリティにあった。
スープが恐ろしくぬるかったのである。
微妙にぬるいというのならまだ許せよう。恐ろしくぬるいのだ。どう考えても客に出せるものではないだろう。
話しはそれだけに留まらず、あまつさえ、具に髪の毛すら入っていた。
その瞬間、わたしは店員を呼び、それを指摘しようと試みたが、店員は誰も現れなかった。3回ほど呼んで、わたしはもうその件はどうでもよくなってしまったのだ。
急いでビールを飲み干し、勘定して店を出た。
店内には、タレントのサイン色紙がびっしり。
参道の入り口という好立地もあって、お客はひっきりなしである。
寅さん人気は渥美清さんが亡くなり衰えるどころか、ますます高まるようで、柴又の集客は非常に高い。
企業努力による集客ではなく、外的要因の需要によって商売が潤っている店は間違いなく店のクオリティは低い。
これはあくまでもわたしの推論だが、この「かなん亭」もそういう傾向にあるような気がする。
昨年は柴又に行く機会がかなりあったが、この店は二度と入るのをやめた。
その他のお店についてはおいおい当欄で紹介していくが、焼き鳥、焼きとん類を出す店は参道の店でも唯一。
だからこそ、惜しい。
この体たらくでは、きっと寅さんもお怒りのことだと思う。
冒頭のシーンは千葉県側でしたか。
確かに、寅さんが行くか行かぬか迷っているような表情を浮かべていることを考えれば、まだ柴又の地を踏んでいないということですね。
ありがとうございました。
いいお店です。
柴又に
二度と来ないでください。