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北区は古い酒場のゴールデンエリアだと説いた本があった。
その当時はなんとなく同意したが、今はそう思ってない。
むしろ、隣駅の板橋の方が古い店は多い。
この日も酒場を探して、十条駅の周囲を歩いた。
実は酒場の候補はそれほど多くない。
「斎藤酒場」と「田や」以外、選択肢はそれほど多くない。この日は、新規開拓を主眼にしており、ボクは店を探してまわった。
十条銀座も演芸通りもくまなく歩いた。
だが、「これ!」という店はなかった。
乏しい候補の中で決めたのは「越前屋」という店だった。
決め手は、なんとなくである。
店に入って、目についたのが、カラオケセットだ。
「あぁ、カラオケ居酒屋か」と落胆した。
これは失敗したか。
そう思いながら、カウンターに座り、生ビールを頼んだ。
既に客が数人いた。
皆、年輩の方々である。その上、皆さん、常連さんだ。
多分、常連さんが集まる店なのだろう。
ある程度、予測はついたが、実際そうだと分かると、とたんに心細くなった。
生ビールを注文すると、隣にいたおばちゃんがボクに話しかけてきた。
ピンクのワンピースを着たおばちゃんだった。
「どっから来たの?」という野暮な質問ではなかった。
「このマスター、ものすごく料理が上手なの」。
意表をついた言葉に、ボクは言葉を失った。
寡黙なマスターである。オーダーに対しても、うんともすんとも言わない。そのかわり、常連らは随分饒舌だ。
次第に他の常連さんも、ボクに話しかけてきた。
とにかく、他愛もない話しである。
だが、たいした話しじゃなくても、しっかりと話題になるのは、話術がしっかりとしているからだろう。
マスターの料理は確かにおいしかった。
家庭料理の一品料理。
ボクは「肉じゃが」をいただいた。
そうこうするうち、お客はどんどん増えていった。
足の不自由なおばあさんも常連の中に加わった。
不思議だったのは、この店に集う客に、サラリーマンがいなかったことである。もっとも、この日は冬休みに入っており、勤め帰りの客は絶対的に少なかったかもしれないが、それにしても、客はほとんどが老人だった。
北区は23区内の中で、もっとも高齢化率が高い区である。
日本は世界に類をみない速度で、高齢化社会を迎えている。
2時間ほど店にいたが、何を話したか、覚えてない。
ただ、時間を忘れて沢山の話しを聞いてもらった。
常連の店は、ともすれば排他的だが、「越前屋」は一見に優しい店だった。